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動かない祖母に華衣が手を合わせている間、浬烏はただそっと待っていた。同じ部屋の隅で、腕を組み入口の柱にもたれる。浬烏のすぐ前では、彼に怯えながらもむせび泣く母と悔恨の顔で俯く父の姿があった。
暫くして華衣は合わせていた手を下ろす。
「お祖母ちゃん、今までありがとう」
華衣はそう言うと、震えながらも大股で浬烏の前にやって来た。
「もう良いのか?」
「はい。ちゃんとお別れできましたから」
――そういう意味ではないのだが。
浬烏はちらりと華衣の後ろの両親を見やった。華衣は両親の方を見向きもしない。
「今生の別れになるかもしれん」
浬烏は自身の顎をくいっと上げ、華衣の両親を指し示す。
「いいんです、絶対に離婚して戻ってくるので」
彼女は振り返りもせず、じっと浬烏を見つめた。その瞳は揺れることがない。どうやら意思は固いらしい。
「では、行くぞ」
声とともに、浬烏は華衣をひょいと抱き上げる。
「え、またこれ!?」
華衣が驚いている間に、浬烏は自身の身体を包む洋装を解き、本来の和装姿に戻った。人の姿で羽を伸ばしたい時は、これでないと飛べないのだ。
「わ、夢とおんなじ! え、いつの間に!」
あれは夢でなく華衣の魂をかくりよに通わせ会っていたのだ、と浬烏は胸の内で言う。祝言前にしておけと神に仰せつかったからしたことであるが、何の意味があったのか未だに良く分からない。
「掴まれ。先程よりも高く飛ぶ」
「え、あ、はい!」
素直に首元に抱きついてきた華衣の膝裏と背中をしっかりと抱え、浬烏は縁側の窓から夜の空へ飛び立った。
動かない祖母に華衣が手を合わせている間、浬烏はただそっと待っていた。同じ部屋の隅で、腕を組み入口の柱にもたれる。浬烏のすぐ前では、彼に怯えながらもむせび泣く母と悔恨の顔で俯く父の姿があった。
暫くして華衣は合わせていた手を下ろす。
「お祖母ちゃん、今までありがとう」
華衣はそう言うと、震えながらも大股で浬烏の前にやって来た。
「もう良いのか?」
「はい。ちゃんとお別れできましたから」
――そういう意味ではないのだが。
浬烏はちらりと華衣の後ろの両親を見やった。華衣は両親の方を見向きもしない。
「今生の別れになるかもしれん」
浬烏は自身の顎をくいっと上げ、華衣の両親を指し示す。
「いいんです、絶対に離婚して戻ってくるので」
彼女は振り返りもせず、じっと浬烏を見つめた。その瞳は揺れることがない。どうやら意思は固いらしい。
「では、行くぞ」
声とともに、浬烏は華衣をひょいと抱き上げる。
「え、またこれ!?」
華衣が驚いている間に、浬烏は自身の身体を包む洋装を解き、本来の和装姿に戻った。人の姿で羽を伸ばしたい時は、これでないと飛べないのだ。
「わ、夢とおんなじ! え、いつの間に!」
あれは夢でなく華衣の魂をかくりよに通わせ会っていたのだ、と浬烏は胸の内で言う。祝言前にしておけと神に仰せつかったからしたことであるが、何の意味があったのか未だに良く分からない。
「掴まれ。先程よりも高く飛ぶ」
「え、あ、はい!」
素直に首元に抱きついてきた華衣の膝裏と背中をしっかりと抱え、浬烏は縁側の窓から夜の空へ飛び立った。