「紬、あまり先を行ってはいけないよ。あやかしは──」
「危ない生き物だから、気をつけなければならないよ、でしょう? 分かってますよ」

 あれから2日間、桔梗さまのお屋敷でお世話になって。
 今日、ひとの世に向かって旅を始めたところだ。
 ほんとはずっとあやかしの世でいたいけど、桔梗さまが、1週間以内に帰らなければ、と強く言うから仕方なくだ。

『……けて…………たすけて……』

「桔梗さま、何かおっしゃりましたか?」
「いや? 気のせいじゃないのか?」

 背中が凍るような、ゾッとする声が聞こえた気がした。
 周囲を見回しても、わたしたち以外誰もいない。
 わたしの聞き間違いじゃなければ、「たすけて」って言ってた。
 もしかして、誰かが道に迷っている……?
 
「桔梗さま! わたし、ちょっと行ってきます! すぐ戻ってくるので、ここで待っててください」
「紬っ!?」

 わたしを呼ぶ声が聞こえないふりをして、声のした方へ駆け出した。