頭上に降りかかる光りに、目を覚ます。

とっくに正午は過ぎているようだった。

何かをフライパンで焼く臭いがする。

「おー。チビ、目が覚めたか」

 ディータだ。

ハムと卵を焼いている。

ゴミというか衣類というかガラクタというか、そういうもので埋め尽くされたベッドの脇に、そういうもので半分埋もれたテーブルがあった。

ディータは、そのテーブルに乗っていたものを、腕のひとかきで下に落とすと、フライパンを置く。

「まぁ食え」

 そう言って、やはりモノに半分埋まったソファに、腰を下ろす。

すぐ横にあった紙袋から、パンを取り出した。

それをちぎると、半分を俺に寄こす。

「名前は?」

「ナバロ」

「そっか。俺はディータだ。よろしくな」

 マズくはないが、特に美味くもないものを、腹に押し込んだ。

目の前の食い物がなくなった時には、すっかり午後の日差しに変わっていた。

「で、お前はこれから、どうするつもりだ?」

「……。適当に過ごす」

「はは。なんだそれ」

 ディータは立ち上がる。

「ガキのくせに、生意気な口利いてんじゃねーよ。別に行く当ても、ないんだろ? ちょっと俺の仕事を手伝わないか」

「いやだ」

 彼はニヤリと口角を上げる。

「おいおい。一宿一飯の恩義を忘れるなって、言葉を知らねぇのか」

「関係ないね。お前が勝手にやったことだ」

 俺もソファから立ち上がる。

とにかく散らかりまくった、汚い部屋だ。

出口までの床に、足の踏み場がない。

ディータの腕が、ドカリと俺の肩に回った。

「そんな、つれないこと言うなって。いいからついて来いよ」

「離せ!」

「はは。まぁそう言うな」

 子猫のように持ち上げられ、運ばれる。

俺は顔を真っ赤にしているが、恥ずかしくて逆に動けない。

ディータはドアを蹴破ると、外に出た。

「占いの仕事だ。お前もちょっとは、出来るだろ。出て行くにしても、小銭くらい稼いでからにしたらどうだ」

 やっと下ろして貰える。

ディータはこちらを振り返ることもなく、歩き始めた。

なんだよ。クソ、仕方ないな。

ちょっとだけなら、どんなもんだか、様子くらい見てやってやってもいいか。

楽に金が稼げるなら、当分のものは必要だ。

ディータは俺に背を向けたまま、しゃべっている。

「アレだ。どうせグレティウスに行きたいとか、思ってんだろ?」

「行きたいんじゃない、行くんだ」

 昼下がりの雑踏を、のんびり歩いてゆく。

表通りの店は、どこも大勢の客が出入りしていた。

「やっぱガキの考えることは、たいてい一緒だよな。お前、どうやってグレティウスに行くのか、知ってんのか?」

 場所なら知っている。だが……。

「フン。さすがに分かってるか。大魔道士になりたいって?」

「なる」

「フフ」

 ディータは小さく笑った。

石畳の道を、噴水のある広場に出る。

そこを通り過ぎても、なお歩いてゆく。

「グレティウスは、大魔王エルグリムの、かつての居城跡だ。今は封鎖されて、簡単に入れるところじゃない。しかもそのどこかに、『悪夢』が眠ってるって話しだ。そりゃライノルトだって、放ってはおかない」

 ライノルト、かつての田舎町。

今は新政府の中央議会が置かれる、事実上の首都だ。

「そのライノルトも、今や大予言師ユファさまの言いなりだ」

 ディータはくるりと振り返る。

「だから、今からなるとしたら、何でも屋の魔道士より、予言師。つまり、占い師が狙い目ってことだ。魔道士なんてやめて、俺と一緒に占い師やろうぜ」

「やだね」

 ユファか。あの忌々しい、クソガキめが。

アレは、勇者スアレスに祝福を与えたことで、突然有名になっただけの、ただの詐欺師だ。

当時五歳だったガキの予言なんぞに、なにがある。

周りに乗せられて祀り上げられた、ただの飾りものだ。

それが今や、大賢者さまとして政府の中央にいるとは、片腹痛い。

「『悪夢』を探すにしたって、どれだけライノルトの連中が血眼になってても、見つけられないんだ。それを探り当てるためにも、予言師は必要なんだよ」

「ならばなぜ、ユファ自身が見つけない。『悪夢』を見つけられない時点で、アイツはクソだ」

 そう。俺の足元にも及ばない。ディータは笑った。

「あはは! やっぱお前、面白いな。じゃあお前は、見つけられるってのか?」

「見つけるさ。簡単だよ」

 俺が隠したんだ。ディータはそんな俺を、ニヤリと見下ろす。

「そうか。ならグレティウスを守ってる連中も、きっとお前を受け入れるだろうな。大歓迎だよ。待ってましただ」

 通りを曲がる。

目の前に開けたのは、立派な市場だった。

「だがそこまでの、道のりは長いぞ。ほら、ここが俺の仕事場だ。お前はここで、歌でも歌うか?」

 数十メートルの通り両脇にテントが張られ、様々な屋台が並んでいる。

野菜に肉、アクセサリーや帽子、スープやパンの店もあれば、様々な効能の魔法石を売っている店もある。

「ここと、もう一本隣に市が立つんだ。どこか人目につきそうな場所で、空いているところを探すんだよ」

 賑やかな通りを、一通り見て回る。

ディータは休業日の工場裏にある、小さな階段前で立ち止まった。

「この辺りがいいかな」

 ポケットから煙草を取り出すと、火をつけた。

魔法石と薬草の混じった、独特な紫煙が立ちこめる。

「これは……」

「まぁ黙って、見てろって」

 ディータは、カードを取り出した。

魔法石と薬草を混ぜた絵の具でイラストを書き付けた、一種のマジックアイテムだ。

魔法を帯びたそれを、宙にばらまく。

カードは美しい弧を描いて、キラキラと輝いた。

「さぁさぁ。何でも占う占い師だよ。魔法のカードが、あなたの未来をピタリと当てる。捜し物も結婚相手も、何でもお任せあれ!」

 ふわりと風を巻き起こす。

煙草の煙はわずかな魔力を含み、通りかかった人々に、幻覚を見せる。

虹色に輝く無数の蝶が、ひらひらと羽ばたいた。

「まぁ、素敵な魔法ね。私もひとつお願いしようかしら」

「さぁどうぞ、こちらへお座りなさい」

 くだらない。

これだから、魔道士がバカにされるんだ。

「俺はもう行くぞ」

「おいおい、ちょっと待てよ。お前も占いを手伝え。そういう約束だろ?」

「そんな契約を交わした覚えはない」

 立ち上がる。

俺は一刻も早く、グレティウスへ行かねばならない。

「待てって!」

 ディータの手が肩に触れた。

俺はそれを魔法で弾き返す。

ついでに幻覚を見せる煙草の煙も、かき消した。

「痛って! チッ、クソガキが。下手に出れば、つけあがりやがって」

「お前のような場末のエセ魔道士に、世話になるつもりはない」

 ディータが呪文を唱える。

途端に周囲は暗くなった。

幻覚魔法だ。

俺も煙草の煙を吸っている。

閉ざされた暗闇の中で、ディータは銃口を向けた。

「さぁ、大人しくするんだ。悪いようにはしないさ。お前がグレティウスに行きたいってんなら、連れてってやる。だがそれは今じゃない。分かるな」

「今じゃない?」

「あぁ、そうだ。今じゃない」

 ふん。笑わせる。

「悪いが、お前に頼るつもりは一切ない」

 呪文を唱える。

この煙草の煙が幻覚を見せるなら、俺の体内に入り込んだ、その成分ごと全て消し去ってしまえばいい。

『囚われし魔法石の粉よ。さぁ、空高く飛び上がれ、お前達は自由だ!』

 視界が歪む。

真っ暗な異空間に、現実の市場の風景が、割けたように入り込む。

この呪文では無理ってことか? 

ならばもう一度、強く命じればいい。

『飛び上がれ!』

 そのとたん、視界の闇は溶けだし、一気に空へ駆け上がった。

正しい世界を取り戻す。

「なっ、そんな呪文、聞いたことねぇぞ。何でそんなんで有効なんだ!」

 いつの間にか、周囲に野次馬の人垣が出来ていた。

同じ幻覚を見ていたのか、魔法が解けた瞬間、歓声と拍手が巻き起こる。

「ちっ、見世物じゃねぇぞ」

 ディータは、次の呪文を仕掛けている。

魔法石の粉を塗りつけたカードが宙を舞う。

コイツが占い師? 

ただ未来を嘆いているだけの、クズな魔道士には見えない。

随分手慣れているようだ。腕もいい。

「はは。コイツは面白くなってきたな。ガキだと思ってナメてちゃ、やられるかもな」

 ニヤリと笑みを浮かべた。

「そうこなくっちゃ。この俺を、ガッカリさせないでくれ」

 カードが魔方陣を描く。

見たことのない陣形だ。なんだこれ? 

舞い上がる砂埃が、足元の自由を奪う。

あぁ、違う。

ケンカ慣れしてんだ、コイツ。

ディータは胸の前で印を結んだ。

黒味がかった緑の目が、鮮やかに燃え上がる。

「本気で『悪夢』を狙うなら、これくらいはやってもらわねぇとなぁ!」

 魔力解放。

ディータの体は、一瞬にして深緑の炎をまとう。

その全てを吸収したと思った瞬間、増殖したカードが襲う。

俺は飛び交うその一つ一つを、丁寧に避けた。

飛んでくる軌道を、魔法でわずかに変えてやるだけでいい。

呪文を唱える。

『風よ、この身に纏う守りとなれ』

 らせん状の風を、足元から自分の体に巻き付けた。

ディータはすぐに、次の呪文を唱えている。

そのカードの一つが、姿を変えた。

これは煙草による幻覚なんかじゃない。

「はは。なるほどね」

 このカードたちは、ディータの使い魔だ。

主の唱える呪文によって、自在にその姿を変化させる。

「ならば、遠慮なく行こう」

 相手が本気でかかってくるなら、こちらも本気で返さないと失礼だろう? 

こういう本物の魔道士を相手にするのは、この体に生まれ変わってからは、初めてだ。

ディータの呪文で、カードは三つの頭を持つ大蛇に変化した。

俺は右手をかざす。

破壊魔法? 

それとも、全部のカードを一気に吹き飛ばす? 

いやいや、それじゃ面白くないだろう。

『石は石の元へ。木は木の元へ帰れ』

 その呪文に、膨張し、そのまま弾け飛ぶかに見えた蛇は、再び形を取り戻した。

ディータの魔力をそのまま形にした蛇は、赤黒く光り輝く。

「ふん。そんな単純高等魔法で言うこと聞かそうなんて、エルグリムでも無理だろうよ」

 ディータの呪文。

『踊れ。お前の望むままに!』

 大蛇の体は三つに裂け、俺に飛びかかった。

「見た目通りのガキじゃないことを、ここで証明してくれ」

 鋭い牙が肌を切り裂く。

まとうつむじ風で振り落としたものの、これでは動けない。

「案外退屈だったな。子供は家に帰りな」

 ディータは腰の拳銃を抜いた。

その銃口を、真っ直ぐに俺に向ける。

引き金を引いた。

「その判断はまだ早い」

 飛び上がる。

背面に飛び、弾丸と蛇を避けた。

着地したついでに尾を掴み、奴に向かってぶん投げる。

ディータはそれを肘で受け止めると、そのまま体に吸収した。

自分の魔力を外に取りだし、操る術だ。

そういえばそんなことが出来る連中も、腐るほどいたな。

「目の色を分散させているのか。それなら魔力の深さは、簡単には測れない」

「器用だろ? こんなもんじゃないぜ」

 ディータが呪文を唱える。

二匹の蛇は、狼へと姿を変えた。

赤黒く魔法で光るその二頭は、同時に大地を蹴った。

とりあえず先に、その一匹を弾き飛ばす。

群衆の中に向かったそれは、すぐにディータが回収した。

残るは一匹。

「反撃してこいよ。どうして何もしない。まさかそこで立ってるだけが、精一杯ってわけでもないんだろ?」

 どうしよう。

何の呪文で対抗しようか。

昔の使い魔を出す? 

魔力を擬態化した、コイツの使っているようなものではない、本物のモンスターだ。

どこにいったっけ。

召喚したところで、今さら言うこと聞いてくれるかな。

「そういえば、俺にもちゃんとした使い魔がいたなーって」

 俺は静かに目を閉じ、印を結ぶ。

「お前に使い魔? マジかよ。モンスターと契約を結ぶには、それなりの宣誓か能力が……」

「そうだよ。お前のその、なんちゃって使い魔じゃない、本物の魔物たちだ」

 呪文を唱える。

『この声に覚えのある者どもよ、我の元へ集え。いにしえの約束を果たすときが来た』

 魔力を帯びた呪文は言霊となり、世界へ広がってゆく。

大地が揺れ始めた。

「なっ、お前。そんなセリフ吐いたところで、どんなヤツが来るってんだよ」

 街全体が揺れている。

それを覆う、空気までもがふるえた。

予兆だ。

これはエルグリム復活の予兆として、再び世界に轟き、恐怖として響き渡るだろう。

静かな風が、目の前を横切る。

「……。ダメか」

 だがそれは、一瞬にして平常を取り戻してしまった。

返事はない。

あぁ、俺が死んだ時に、一緒に全部、狩り尽くされてしまったんだな……。

「お、驚かすなよ。テメー!」

 周囲を取り囲む野次馬までもが、怯えから解放された、安堵のため息をもらす。

魔力によって形作られただけの使い魔は姿を消し、それを呼び出すカードだけが地面に落ちていた。

「おいおいどうした? 俺のまでビビって、消えちまってんじゃねぇか」

 ディータはそれを拾うと、もう一度印を結ぶ。

「お前まさか、本気で魔物たちを呼び出せるとか、思ってたワケじゃないよな」

「呼び出せる……。と、思った」

「ふん。その魔力の強さは認めるが、本当の使い魔ってのは、呼び出す前に契約が必要なんだ」

「知ってるよ。一度は従えないといけない」

「懐かせないとな」

「うん」

 ディータは印を結ぶために組んだ手の奥から、視線をチラリとのぞかせた。

「は? マジで呼び出せるとか、思ったのか?」

 魔法使いの目が、じっと俺を見つめる。

「あぁ、そうだよ」

 実に残念だ。

「本気で?」

「本気で」

「マジか」

「マジだ」

 俺たちをぎっしりと取り囲む群衆の奥から、不意に騒ぎ声が聞こえてきた。

それらを蹴散らし、銀の甲冑が飛び込んでくる。

聖剣士たちだ。

「なんだこの騒ぎは! って、またお前かディータ。いい加減にしろ」

「あぁ? 今回のは、見世物じゃねえよ。どっか行ってろ」

「あれだけの魔力を放出しておいて、知らんぷりが出来るか」

「やかましい。手出しすると、タダじゃ済まねぇぞ」

 その言葉にたじろぐ聖剣士たちの中で、ただ一人が剣を抜いた。

はめ込まれた石に、呪いがかかっている。

魔剣だ。

「いつでもどこでも、この街じゃお前が騒ぎの原因だ。いい加減、大人しくしろ」

 その男はチラリと俺を見たあとで、すぐに視線をディータに戻す。

「あの地震はなんだ。お前がやったのか」

「あぁ? ……。あぁ、まぁちょっと新しい呪文を試してみたけど、あんま上手くいかなかったなぁって話しだ」

「なぜ街中で騒ぐ。あれほど迷惑はかけるなと……」

「所詮しがない占い師だ。日銭を稼いでなにが悪い」

 この聖剣士の目は、黒っぽい茶色をしている。

魔道士ではない。

「今度騒ぎを起こせば、次はないと警告してあったはずだ。覚悟は出来ているだろうな」

 聖剣士は呪文を唱えた。

魔力を吸収するよう石に指示を出している。

剣にはめ込まれた魔石が黒く光った。

こんな剣を扱えるのは、ただの聖剣士ではない。

そしてその剣も、ただの剣ではない! 

構えた剣が宙を斬る。

ただそれだけで、ディータの張った結界が崩れてゆく。

「もう魔道士の時代は終わったんだ。大魔王エルグリムを倒せると予言した、ユファさまから祝福を受けた、吸魔の剣だ。お前らごとき占い師風情が、俺に勝てると思うな」

「そういえばお前とは、一度ちゃんと勝負しないといけなかったな」

 ディータが呪文を唱える。

攻撃魔法だ。

小さな火の玉が、聖剣士に襲いかかる。

その剣が火に触れた瞬間、炎は刃を伝い魔石に吸い込まれてゆく。

「さぁ、今度こそ牢に繋がれ、正当な処罰を受けるがいい」

 剣士の呪文。

魔石の色が黒から赤に変わった。

とたんに剣は、炎に包まれる。

相手の魔力を奪い、それを自らの力に変える……魔剣だ。

「この剣の前では、どんな魔法も意味を成さない。お前もいつまでも、手品に夢見る大魔王ではいられないぞ」

「魔法は手品じゃねぇ」

「もちろん手品じゃないさ。だがその使い方を、間違えるなと言っている」

 ディータは呪文を口ずさむ。

相手の動きを封じる魔法か? 

俺は足元に落ちていた小石を拾った。

「所詮、実体である肉体の動きには、勝てないと言ってるんだ」

 聖剣士は、炎の剣を構える。

『蜘蛛の巣よ、魔剣士の動きを止めろ』

 ディータの手から、緑の網が放たれる。

剣士は魔剣を振るった。

その炎は、蜘蛛の巣を焼き落とす。

刃の切っ先が、ディータの首元を捕らえた瞬間、俺の投げた石はその刀身を弾いた。

「ふん。確かにその剣は、大魔道士エルグリムを倒した剣のようだ」

「……。魔法使いの子供か……」

 その剣士は、俺を見下ろす。

「子供でも、コイツに加勢するなら容赦はない」

 なにが聖剣士だ。魔剣だ。

お前のその剣こそ、呪われていることを教えてやろう。

「おい。ガキはさっさと、どっか逃げてろ」

「詐欺師ユファの加護だと? そんな物を振り回しありがたがる連中に、何を恐れることがある」

 呪文を唱える。

俺の目の前でそんな剣を振るったことを、後悔させてやる。

「おい! やめろ!」

 魔力解放。

激しい力が俺の体を貫通し、天から大地を貫く。

燃え上がる碧い緑の炎柱に体が包まれた。

「無茶しすぎだ! それじゃあ、お前の体がもたない!」

 聖剣士は呪文を唱えている。

魔石の色が赤から黒に変わった。

その程度の石で、俺の力を奪うつもりか? 

銀の鎧に身を包んだ聖剣士が、魔剣を振るった。

「やめろ!」

 ディータが飛び出す。

俺は標準をその聖剣士に定めた。

『滅びの声を聞け』

 ディータが結界を張る。

それに弾かれた俺の波動弾は、そのまま俺に戻ってきた。

「バカ! ちょっとは考えろ!」

 視界がぼやける。

あぁ、またやってしまった。

本当にこの体には、未だに慣れない。

聖剣士が慌てた顔で駆け寄ってくる。

その剣を鞘に収めたから、まぁいっか。

俺は誰かの腕に抱き留められると、そのまま意識を失った。