頭上に降りかかる光りに、目を覚ます。
とっくに正午は過ぎているようだった。
何かをフライパンで焼く臭いがする。
「おー。チビ、目が覚めたか」
ディータだ。
ハムと卵を焼いている。
ゴミというか衣類というかガラクタというか、そういうもので埋め尽くされたベッドの脇に、そういうもので半分埋もれたテーブルがあった。
ディータは、そのテーブルに乗っていたものを、腕のひとかきで下に落とすと、フライパンを置く。
「まぁ食え」
そう言って、やはりモノに半分埋まったソファに、腰を下ろす。
すぐ横にあった紙袋から、パンを取り出した。
それをちぎると、半分を俺に寄こす。
「名前は?」
「ナバロ」
「そっか。俺はディータだ。よろしくな」
マズくはないが、特に美味くもないものを、腹に押し込んだ。
目の前の食い物がなくなった時には、すっかり午後の日差しに変わっていた。
「で、お前はこれから、どうするつもりだ?」
「……。適当に過ごす」
「はは。なんだそれ」
ディータは立ち上がる。
「ガキのくせに、生意気な口利いてんじゃねーよ。別に行く当ても、ないんだろ? ちょっと俺の仕事を手伝わないか」
「いやだ」
彼はニヤリと口角を上げる。
「おいおい。一宿一飯の恩義を忘れるなって、言葉を知らねぇのか」
「関係ないね。お前が勝手にやったことだ」
俺もソファから立ち上がる。
とにかく散らかりまくった、汚い部屋だ。
出口までの床に、足の踏み場がない。
ディータの腕が、ドカリと俺の肩に回った。
「そんな、つれないこと言うなって。いいからついて来いよ」
「離せ!」
「はは。まぁそう言うな」
子猫のように持ち上げられ、運ばれる。
俺は顔を真っ赤にしているが、恥ずかしくて逆に動けない。
ディータはドアを蹴破ると、外に出た。
「占いの仕事だ。お前もちょっとは、出来るだろ。出て行くにしても、小銭くらい稼いでからにしたらどうだ」
やっと下ろして貰える。
ディータはこちらを振り返ることもなく、歩き始めた。
なんだよ。クソ、仕方ないな。
ちょっとだけなら、どんなもんだか、様子くらい見てやってやってもいいか。
楽に金が稼げるなら、当分のものは必要だ。
ディータは俺に背を向けたまま、しゃべっている。
「アレだ。どうせグレティウスに行きたいとか、思ってんだろ?」
「行きたいんじゃない、行くんだ」
昼下がりの雑踏を、のんびり歩いてゆく。
表通りの店は、どこも大勢の客が出入りしていた。
「やっぱガキの考えることは、たいてい一緒だよな。お前、どうやってグレティウスに行くのか、知ってんのか?」
場所なら知っている。だが……。
「フン。さすがに分かってるか。大魔道士になりたいって?」
「なる」
「フフ」
ディータは小さく笑った。
石畳の道を、噴水のある広場に出る。
そこを通り過ぎても、なお歩いてゆく。
「グレティウスは、大魔王エルグリムの、かつての居城跡だ。今は封鎖されて、簡単に入れるところじゃない。しかもそのどこかに、『悪夢』が眠ってるって話しだ。そりゃライノルトだって、放ってはおかない」
ライノルト、かつての田舎町。
今は新政府の中央議会が置かれる、事実上の首都だ。
「そのライノルトも、今や大予言師ユファさまの言いなりだ」
ディータはくるりと振り返る。
「だから、今からなるとしたら、何でも屋の魔道士より、予言師。つまり、占い師が狙い目ってことだ。魔道士なんてやめて、俺と一緒に占い師やろうぜ」
「やだね」
ユファか。あの忌々しい、クソガキめが。
アレは、勇者スアレスに祝福を与えたことで、突然有名になっただけの、ただの詐欺師だ。
当時五歳だったガキの予言なんぞに、なにがある。
周りに乗せられて祀り上げられた、ただの飾りものだ。
それが今や、大賢者さまとして政府の中央にいるとは、片腹痛い。
「『悪夢』を探すにしたって、どれだけライノルトの連中が血眼になってても、見つけられないんだ。それを探り当てるためにも、予言師は必要なんだよ」
「ならばなぜ、ユファ自身が見つけない。『悪夢』を見つけられない時点で、アイツはクソだ」
そう。俺の足元にも及ばない。ディータは笑った。
「あはは! やっぱお前、面白いな。じゃあお前は、見つけられるってのか?」
「見つけるさ。簡単だよ」
俺が隠したんだ。ディータはそんな俺を、ニヤリと見下ろす。
「そうか。ならグレティウスを守ってる連中も、きっとお前を受け入れるだろうな。大歓迎だよ。待ってましただ」
通りを曲がる。
目の前に開けたのは、立派な市場だった。
「だがそこまでの、道のりは長いぞ。ほら、ここが俺の仕事場だ。お前はここで、歌でも歌うか?」
数十メートルの通り両脇にテントが張られ、様々な屋台が並んでいる。
野菜に肉、アクセサリーや帽子、スープやパンの店もあれば、様々な効能の魔法石を売っている店もある。
「ここと、もう一本隣に市が立つんだ。どこか人目につきそうな場所で、空いているところを探すんだよ」
賑やかな通りを、一通り見て回る。
ディータは休業日の工場裏にある、小さな階段前で立ち止まった。
「この辺りがいいかな」
ポケットから煙草を取り出すと、火をつけた。
魔法石と薬草の混じった、独特な紫煙が立ちこめる。
「これは……」
「まぁ黙って、見てろって」
ディータは、カードを取り出した。
魔法石と薬草を混ぜた絵の具でイラストを書き付けた、一種のマジックアイテムだ。
魔法を帯びたそれを、宙にばらまく。
カードは美しい弧を描いて、キラキラと輝いた。
「さぁさぁ。何でも占う占い師だよ。魔法のカードが、あなたの未来をピタリと当てる。捜し物も結婚相手も、何でもお任せあれ!」
ふわりと風を巻き起こす。
煙草の煙はわずかな魔力を含み、通りかかった人々に、幻覚を見せる。
虹色に輝く無数の蝶が、ひらひらと羽ばたいた。
「まぁ、素敵な魔法ね。私もひとつお願いしようかしら」
「さぁどうぞ、こちらへお座りなさい」
くだらない。
これだから、魔道士がバカにされるんだ。
「俺はもう行くぞ」
「おいおい、ちょっと待てよ。お前も占いを手伝え。そういう約束だろ?」
「そんな契約を交わした覚えはない」
立ち上がる。
俺は一刻も早く、グレティウスへ行かねばならない。
「待てって!」
ディータの手が肩に触れた。
俺はそれを魔法で弾き返す。
ついでに幻覚を見せる煙草の煙も、かき消した。
「痛って! チッ、クソガキが。下手に出れば、つけあがりやがって」
「お前のような場末のエセ魔道士に、世話になるつもりはない」
ディータが呪文を唱える。
途端に周囲は暗くなった。
幻覚魔法だ。
俺も煙草の煙を吸っている。
閉ざされた暗闇の中で、ディータは銃口を向けた。
「さぁ、大人しくするんだ。悪いようにはしないさ。お前がグレティウスに行きたいってんなら、連れてってやる。だがそれは今じゃない。分かるな」
「今じゃない?」
「あぁ、そうだ。今じゃない」
ふん。笑わせる。
「悪いが、お前に頼るつもりは一切ない」
呪文を唱える。
この煙草の煙が幻覚を見せるなら、俺の体内に入り込んだ、その成分ごと全て消し去ってしまえばいい。
『囚われし魔法石の粉よ。さぁ、空高く飛び上がれ、お前達は自由だ!』
視界が歪む。
真っ暗な異空間に、現実の市場の風景が、割けたように入り込む。
この呪文では無理ってことか?
ならばもう一度、強く命じればいい。
『飛び上がれ!』
そのとたん、視界の闇は溶けだし、一気に空へ駆け上がった。
正しい世界を取り戻す。
「なっ、そんな呪文、聞いたことねぇぞ。何でそんなんで有効なんだ!」
いつの間にか、周囲に野次馬の人垣が出来ていた。
同じ幻覚を見ていたのか、魔法が解けた瞬間、歓声と拍手が巻き起こる。
「ちっ、見世物じゃねぇぞ」
ディータは、次の呪文を仕掛けている。
魔法石の粉を塗りつけたカードが宙を舞う。
コイツが占い師?
ただ未来を嘆いているだけの、クズな魔道士には見えない。
随分手慣れているようだ。腕もいい。
「はは。コイツは面白くなってきたな。ガキだと思ってナメてちゃ、やられるかもな」
ニヤリと笑みを浮かべた。
「そうこなくっちゃ。この俺を、ガッカリさせないでくれ」
カードが魔方陣を描く。
見たことのない陣形だ。なんだこれ?
舞い上がる砂埃が、足元の自由を奪う。
あぁ、違う。
ケンカ慣れしてんだ、コイツ。
ディータは胸の前で印を結んだ。
黒味がかった緑の目が、鮮やかに燃え上がる。
「本気で『悪夢』を狙うなら、これくらいはやってもらわねぇとなぁ!」
魔力解放。
ディータの体は、一瞬にして深緑の炎をまとう。
その全てを吸収したと思った瞬間、増殖したカードが襲う。
俺は飛び交うその一つ一つを、丁寧に避けた。
飛んでくる軌道を、魔法でわずかに変えてやるだけでいい。
呪文を唱える。
『風よ、この身に纏う守りとなれ』
らせん状の風を、足元から自分の体に巻き付けた。
ディータはすぐに、次の呪文を唱えている。
そのカードの一つが、姿を変えた。
これは煙草による幻覚なんかじゃない。
「はは。なるほどね」
このカードたちは、ディータの使い魔だ。
主の唱える呪文によって、自在にその姿を変化させる。
「ならば、遠慮なく行こう」
相手が本気でかかってくるなら、こちらも本気で返さないと失礼だろう?
こういう本物の魔道士を相手にするのは、この体に生まれ変わってからは、初めてだ。
ディータの呪文で、カードは三つの頭を持つ大蛇に変化した。
俺は右手をかざす。
破壊魔法?
それとも、全部のカードを一気に吹き飛ばす?
いやいや、それじゃ面白くないだろう。
『石は石の元へ。木は木の元へ帰れ』
その呪文に、膨張し、そのまま弾け飛ぶかに見えた蛇は、再び形を取り戻した。
ディータの魔力をそのまま形にした蛇は、赤黒く光り輝く。
「ふん。そんな単純高等魔法で言うこと聞かそうなんて、エルグリムでも無理だろうよ」
ディータの呪文。
『踊れ。お前の望むままに!』
大蛇の体は三つに裂け、俺に飛びかかった。
「見た目通りのガキじゃないことを、ここで証明してくれ」
鋭い牙が肌を切り裂く。
まとうつむじ風で振り落としたものの、これでは動けない。
「案外退屈だったな。子供は家に帰りな」
ディータは腰の拳銃を抜いた。
その銃口を、真っ直ぐに俺に向ける。
引き金を引いた。
「その判断はまだ早い」
飛び上がる。
背面に飛び、弾丸と蛇を避けた。
着地したついでに尾を掴み、奴に向かってぶん投げる。
ディータはそれを肘で受け止めると、そのまま体に吸収した。
自分の魔力を外に取りだし、操る術だ。
そういえばそんなことが出来る連中も、腐るほどいたな。
「目の色を分散させているのか。それなら魔力の深さは、簡単には測れない」
「器用だろ? こんなもんじゃないぜ」
ディータが呪文を唱える。
二匹の蛇は、狼へと姿を変えた。
赤黒く魔法で光るその二頭は、同時に大地を蹴った。
とりあえず先に、その一匹を弾き飛ばす。
群衆の中に向かったそれは、すぐにディータが回収した。
残るは一匹。
「反撃してこいよ。どうして何もしない。まさかそこで立ってるだけが、精一杯ってわけでもないんだろ?」
どうしよう。
何の呪文で対抗しようか。
昔の使い魔を出す?
魔力を擬態化した、コイツの使っているようなものではない、本物のモンスターだ。
どこにいったっけ。
召喚したところで、今さら言うこと聞いてくれるかな。
「そういえば、俺にもちゃんとした使い魔がいたなーって」
俺は静かに目を閉じ、印を結ぶ。
「お前に使い魔? マジかよ。モンスターと契約を結ぶには、それなりの宣誓か能力が……」
「そうだよ。お前のその、なんちゃって使い魔じゃない、本物の魔物たちだ」
呪文を唱える。
『この声に覚えのある者どもよ、我の元へ集え。いにしえの約束を果たすときが来た』
魔力を帯びた呪文は言霊となり、世界へ広がってゆく。
大地が揺れ始めた。
「なっ、お前。そんなセリフ吐いたところで、どんなヤツが来るってんだよ」
街全体が揺れている。
それを覆う、空気までもがふるえた。
予兆だ。
これはエルグリム復活の予兆として、再び世界に轟き、恐怖として響き渡るだろう。
静かな風が、目の前を横切る。
「……。ダメか」
だがそれは、一瞬にして平常を取り戻してしまった。
返事はない。
あぁ、俺が死んだ時に、一緒に全部、狩り尽くされてしまったんだな……。
「お、驚かすなよ。テメー!」
周囲を取り囲む野次馬までもが、怯えから解放された、安堵のため息をもらす。
魔力によって形作られただけの使い魔は姿を消し、それを呼び出すカードだけが地面に落ちていた。
「おいおいどうした? 俺のまでビビって、消えちまってんじゃねぇか」
ディータはそれを拾うと、もう一度印を結ぶ。
「お前まさか、本気で魔物たちを呼び出せるとか、思ってたワケじゃないよな」
「呼び出せる……。と、思った」
「ふん。その魔力の強さは認めるが、本当の使い魔ってのは、呼び出す前に契約が必要なんだ」
「知ってるよ。一度は従えないといけない」
「懐かせないとな」
「うん」
ディータは印を結ぶために組んだ手の奥から、視線をチラリとのぞかせた。
「は? マジで呼び出せるとか、思ったのか?」
魔法使いの目が、じっと俺を見つめる。
「あぁ、そうだよ」
実に残念だ。
「本気で?」
「本気で」
「マジか」
「マジだ」
俺たちをぎっしりと取り囲む群衆の奥から、不意に騒ぎ声が聞こえてきた。
それらを蹴散らし、銀の甲冑が飛び込んでくる。
聖剣士たちだ。
「なんだこの騒ぎは! って、またお前かディータ。いい加減にしろ」
「あぁ? 今回のは、見世物じゃねえよ。どっか行ってろ」
「あれだけの魔力を放出しておいて、知らんぷりが出来るか」
「やかましい。手出しすると、タダじゃ済まねぇぞ」
その言葉にたじろぐ聖剣士たちの中で、ただ一人が剣を抜いた。
はめ込まれた石に、呪いがかかっている。
魔剣だ。
「いつでもどこでも、この街じゃお前が騒ぎの原因だ。いい加減、大人しくしろ」
その男はチラリと俺を見たあとで、すぐに視線をディータに戻す。
「あの地震はなんだ。お前がやったのか」
「あぁ? ……。あぁ、まぁちょっと新しい呪文を試してみたけど、あんま上手くいかなかったなぁって話しだ」
「なぜ街中で騒ぐ。あれほど迷惑はかけるなと……」
「所詮しがない占い師だ。日銭を稼いでなにが悪い」
この聖剣士の目は、黒っぽい茶色をしている。
魔道士ではない。
「今度騒ぎを起こせば、次はないと警告してあったはずだ。覚悟は出来ているだろうな」
聖剣士は呪文を唱えた。
魔力を吸収するよう石に指示を出している。
剣にはめ込まれた魔石が黒く光った。
こんな剣を扱えるのは、ただの聖剣士ではない。
そしてその剣も、ただの剣ではない!
構えた剣が宙を斬る。
ただそれだけで、ディータの張った結界が崩れてゆく。
「もう魔道士の時代は終わったんだ。大魔王エルグリムを倒せると予言した、ユファさまから祝福を受けた、吸魔の剣だ。お前らごとき占い師風情が、俺に勝てると思うな」
「そういえばお前とは、一度ちゃんと勝負しないといけなかったな」
ディータが呪文を唱える。
攻撃魔法だ。
小さな火の玉が、聖剣士に襲いかかる。
その剣が火に触れた瞬間、炎は刃を伝い魔石に吸い込まれてゆく。
「さぁ、今度こそ牢に繋がれ、正当な処罰を受けるがいい」
剣士の呪文。
魔石の色が黒から赤に変わった。
とたんに剣は、炎に包まれる。
相手の魔力を奪い、それを自らの力に変える……魔剣だ。
「この剣の前では、どんな魔法も意味を成さない。お前もいつまでも、手品に夢見る大魔王ではいられないぞ」
「魔法は手品じゃねぇ」
「もちろん手品じゃないさ。だがその使い方を、間違えるなと言っている」
ディータは呪文を口ずさむ。
相手の動きを封じる魔法か?
俺は足元に落ちていた小石を拾った。
「所詮、実体である肉体の動きには、勝てないと言ってるんだ」
聖剣士は、炎の剣を構える。
『蜘蛛の巣よ、魔剣士の動きを止めろ』
ディータの手から、緑の網が放たれる。
剣士は魔剣を振るった。
その炎は、蜘蛛の巣を焼き落とす。
刃の切っ先が、ディータの首元を捕らえた瞬間、俺の投げた石はその刀身を弾いた。
「ふん。確かにその剣は、大魔道士エルグリムを倒した剣のようだ」
「……。魔法使いの子供か……」
その剣士は、俺を見下ろす。
「子供でも、コイツに加勢するなら容赦はない」
なにが聖剣士だ。魔剣だ。
お前のその剣こそ、呪われていることを教えてやろう。
「おい。ガキはさっさと、どっか逃げてろ」
「詐欺師ユファの加護だと? そんな物を振り回しありがたがる連中に、何を恐れることがある」
呪文を唱える。
俺の目の前でそんな剣を振るったことを、後悔させてやる。
「おい! やめろ!」
魔力解放。
激しい力が俺の体を貫通し、天から大地を貫く。
燃え上がる碧い緑の炎柱に体が包まれた。
「無茶しすぎだ! それじゃあ、お前の体がもたない!」
聖剣士は呪文を唱えている。
魔石の色が赤から黒に変わった。
その程度の石で、俺の力を奪うつもりか?
銀の鎧に身を包んだ聖剣士が、魔剣を振るった。
「やめろ!」
ディータが飛び出す。
俺は標準をその聖剣士に定めた。
『滅びの声を聞け』
ディータが結界を張る。
それに弾かれた俺の波動弾は、そのまま俺に戻ってきた。
「バカ! ちょっとは考えろ!」
視界がぼやける。
あぁ、またやってしまった。
本当にこの体には、未だに慣れない。
聖剣士が慌てた顔で駆け寄ってくる。
その剣を鞘に収めたから、まぁいっか。
俺は誰かの腕に抱き留められると、そのまま意識を失った。
とっくに正午は過ぎているようだった。
何かをフライパンで焼く臭いがする。
「おー。チビ、目が覚めたか」
ディータだ。
ハムと卵を焼いている。
ゴミというか衣類というかガラクタというか、そういうもので埋め尽くされたベッドの脇に、そういうもので半分埋もれたテーブルがあった。
ディータは、そのテーブルに乗っていたものを、腕のひとかきで下に落とすと、フライパンを置く。
「まぁ食え」
そう言って、やはりモノに半分埋まったソファに、腰を下ろす。
すぐ横にあった紙袋から、パンを取り出した。
それをちぎると、半分を俺に寄こす。
「名前は?」
「ナバロ」
「そっか。俺はディータだ。よろしくな」
マズくはないが、特に美味くもないものを、腹に押し込んだ。
目の前の食い物がなくなった時には、すっかり午後の日差しに変わっていた。
「で、お前はこれから、どうするつもりだ?」
「……。適当に過ごす」
「はは。なんだそれ」
ディータは立ち上がる。
「ガキのくせに、生意気な口利いてんじゃねーよ。別に行く当ても、ないんだろ? ちょっと俺の仕事を手伝わないか」
「いやだ」
彼はニヤリと口角を上げる。
「おいおい。一宿一飯の恩義を忘れるなって、言葉を知らねぇのか」
「関係ないね。お前が勝手にやったことだ」
俺もソファから立ち上がる。
とにかく散らかりまくった、汚い部屋だ。
出口までの床に、足の踏み場がない。
ディータの腕が、ドカリと俺の肩に回った。
「そんな、つれないこと言うなって。いいからついて来いよ」
「離せ!」
「はは。まぁそう言うな」
子猫のように持ち上げられ、運ばれる。
俺は顔を真っ赤にしているが、恥ずかしくて逆に動けない。
ディータはドアを蹴破ると、外に出た。
「占いの仕事だ。お前もちょっとは、出来るだろ。出て行くにしても、小銭くらい稼いでからにしたらどうだ」
やっと下ろして貰える。
ディータはこちらを振り返ることもなく、歩き始めた。
なんだよ。クソ、仕方ないな。
ちょっとだけなら、どんなもんだか、様子くらい見てやってやってもいいか。
楽に金が稼げるなら、当分のものは必要だ。
ディータは俺に背を向けたまま、しゃべっている。
「アレだ。どうせグレティウスに行きたいとか、思ってんだろ?」
「行きたいんじゃない、行くんだ」
昼下がりの雑踏を、のんびり歩いてゆく。
表通りの店は、どこも大勢の客が出入りしていた。
「やっぱガキの考えることは、たいてい一緒だよな。お前、どうやってグレティウスに行くのか、知ってんのか?」
場所なら知っている。だが……。
「フン。さすがに分かってるか。大魔道士になりたいって?」
「なる」
「フフ」
ディータは小さく笑った。
石畳の道を、噴水のある広場に出る。
そこを通り過ぎても、なお歩いてゆく。
「グレティウスは、大魔王エルグリムの、かつての居城跡だ。今は封鎖されて、簡単に入れるところじゃない。しかもそのどこかに、『悪夢』が眠ってるって話しだ。そりゃライノルトだって、放ってはおかない」
ライノルト、かつての田舎町。
今は新政府の中央議会が置かれる、事実上の首都だ。
「そのライノルトも、今や大予言師ユファさまの言いなりだ」
ディータはくるりと振り返る。
「だから、今からなるとしたら、何でも屋の魔道士より、予言師。つまり、占い師が狙い目ってことだ。魔道士なんてやめて、俺と一緒に占い師やろうぜ」
「やだね」
ユファか。あの忌々しい、クソガキめが。
アレは、勇者スアレスに祝福を与えたことで、突然有名になっただけの、ただの詐欺師だ。
当時五歳だったガキの予言なんぞに、なにがある。
周りに乗せられて祀り上げられた、ただの飾りものだ。
それが今や、大賢者さまとして政府の中央にいるとは、片腹痛い。
「『悪夢』を探すにしたって、どれだけライノルトの連中が血眼になってても、見つけられないんだ。それを探り当てるためにも、予言師は必要なんだよ」
「ならばなぜ、ユファ自身が見つけない。『悪夢』を見つけられない時点で、アイツはクソだ」
そう。俺の足元にも及ばない。ディータは笑った。
「あはは! やっぱお前、面白いな。じゃあお前は、見つけられるってのか?」
「見つけるさ。簡単だよ」
俺が隠したんだ。ディータはそんな俺を、ニヤリと見下ろす。
「そうか。ならグレティウスを守ってる連中も、きっとお前を受け入れるだろうな。大歓迎だよ。待ってましただ」
通りを曲がる。
目の前に開けたのは、立派な市場だった。
「だがそこまでの、道のりは長いぞ。ほら、ここが俺の仕事場だ。お前はここで、歌でも歌うか?」
数十メートルの通り両脇にテントが張られ、様々な屋台が並んでいる。
野菜に肉、アクセサリーや帽子、スープやパンの店もあれば、様々な効能の魔法石を売っている店もある。
「ここと、もう一本隣に市が立つんだ。どこか人目につきそうな場所で、空いているところを探すんだよ」
賑やかな通りを、一通り見て回る。
ディータは休業日の工場裏にある、小さな階段前で立ち止まった。
「この辺りがいいかな」
ポケットから煙草を取り出すと、火をつけた。
魔法石と薬草の混じった、独特な紫煙が立ちこめる。
「これは……」
「まぁ黙って、見てろって」
ディータは、カードを取り出した。
魔法石と薬草を混ぜた絵の具でイラストを書き付けた、一種のマジックアイテムだ。
魔法を帯びたそれを、宙にばらまく。
カードは美しい弧を描いて、キラキラと輝いた。
「さぁさぁ。何でも占う占い師だよ。魔法のカードが、あなたの未来をピタリと当てる。捜し物も結婚相手も、何でもお任せあれ!」
ふわりと風を巻き起こす。
煙草の煙はわずかな魔力を含み、通りかかった人々に、幻覚を見せる。
虹色に輝く無数の蝶が、ひらひらと羽ばたいた。
「まぁ、素敵な魔法ね。私もひとつお願いしようかしら」
「さぁどうぞ、こちらへお座りなさい」
くだらない。
これだから、魔道士がバカにされるんだ。
「俺はもう行くぞ」
「おいおい、ちょっと待てよ。お前も占いを手伝え。そういう約束だろ?」
「そんな契約を交わした覚えはない」
立ち上がる。
俺は一刻も早く、グレティウスへ行かねばならない。
「待てって!」
ディータの手が肩に触れた。
俺はそれを魔法で弾き返す。
ついでに幻覚を見せる煙草の煙も、かき消した。
「痛って! チッ、クソガキが。下手に出れば、つけあがりやがって」
「お前のような場末のエセ魔道士に、世話になるつもりはない」
ディータが呪文を唱える。
途端に周囲は暗くなった。
幻覚魔法だ。
俺も煙草の煙を吸っている。
閉ざされた暗闇の中で、ディータは銃口を向けた。
「さぁ、大人しくするんだ。悪いようにはしないさ。お前がグレティウスに行きたいってんなら、連れてってやる。だがそれは今じゃない。分かるな」
「今じゃない?」
「あぁ、そうだ。今じゃない」
ふん。笑わせる。
「悪いが、お前に頼るつもりは一切ない」
呪文を唱える。
この煙草の煙が幻覚を見せるなら、俺の体内に入り込んだ、その成分ごと全て消し去ってしまえばいい。
『囚われし魔法石の粉よ。さぁ、空高く飛び上がれ、お前達は自由だ!』
視界が歪む。
真っ暗な異空間に、現実の市場の風景が、割けたように入り込む。
この呪文では無理ってことか?
ならばもう一度、強く命じればいい。
『飛び上がれ!』
そのとたん、視界の闇は溶けだし、一気に空へ駆け上がった。
正しい世界を取り戻す。
「なっ、そんな呪文、聞いたことねぇぞ。何でそんなんで有効なんだ!」
いつの間にか、周囲に野次馬の人垣が出来ていた。
同じ幻覚を見ていたのか、魔法が解けた瞬間、歓声と拍手が巻き起こる。
「ちっ、見世物じゃねぇぞ」
ディータは、次の呪文を仕掛けている。
魔法石の粉を塗りつけたカードが宙を舞う。
コイツが占い師?
ただ未来を嘆いているだけの、クズな魔道士には見えない。
随分手慣れているようだ。腕もいい。
「はは。コイツは面白くなってきたな。ガキだと思ってナメてちゃ、やられるかもな」
ニヤリと笑みを浮かべた。
「そうこなくっちゃ。この俺を、ガッカリさせないでくれ」
カードが魔方陣を描く。
見たことのない陣形だ。なんだこれ?
舞い上がる砂埃が、足元の自由を奪う。
あぁ、違う。
ケンカ慣れしてんだ、コイツ。
ディータは胸の前で印を結んだ。
黒味がかった緑の目が、鮮やかに燃え上がる。
「本気で『悪夢』を狙うなら、これくらいはやってもらわねぇとなぁ!」
魔力解放。
ディータの体は、一瞬にして深緑の炎をまとう。
その全てを吸収したと思った瞬間、増殖したカードが襲う。
俺は飛び交うその一つ一つを、丁寧に避けた。
飛んでくる軌道を、魔法でわずかに変えてやるだけでいい。
呪文を唱える。
『風よ、この身に纏う守りとなれ』
らせん状の風を、足元から自分の体に巻き付けた。
ディータはすぐに、次の呪文を唱えている。
そのカードの一つが、姿を変えた。
これは煙草による幻覚なんかじゃない。
「はは。なるほどね」
このカードたちは、ディータの使い魔だ。
主の唱える呪文によって、自在にその姿を変化させる。
「ならば、遠慮なく行こう」
相手が本気でかかってくるなら、こちらも本気で返さないと失礼だろう?
こういう本物の魔道士を相手にするのは、この体に生まれ変わってからは、初めてだ。
ディータの呪文で、カードは三つの頭を持つ大蛇に変化した。
俺は右手をかざす。
破壊魔法?
それとも、全部のカードを一気に吹き飛ばす?
いやいや、それじゃ面白くないだろう。
『石は石の元へ。木は木の元へ帰れ』
その呪文に、膨張し、そのまま弾け飛ぶかに見えた蛇は、再び形を取り戻した。
ディータの魔力をそのまま形にした蛇は、赤黒く光り輝く。
「ふん。そんな単純高等魔法で言うこと聞かそうなんて、エルグリムでも無理だろうよ」
ディータの呪文。
『踊れ。お前の望むままに!』
大蛇の体は三つに裂け、俺に飛びかかった。
「見た目通りのガキじゃないことを、ここで証明してくれ」
鋭い牙が肌を切り裂く。
まとうつむじ風で振り落としたものの、これでは動けない。
「案外退屈だったな。子供は家に帰りな」
ディータは腰の拳銃を抜いた。
その銃口を、真っ直ぐに俺に向ける。
引き金を引いた。
「その判断はまだ早い」
飛び上がる。
背面に飛び、弾丸と蛇を避けた。
着地したついでに尾を掴み、奴に向かってぶん投げる。
ディータはそれを肘で受け止めると、そのまま体に吸収した。
自分の魔力を外に取りだし、操る術だ。
そういえばそんなことが出来る連中も、腐るほどいたな。
「目の色を分散させているのか。それなら魔力の深さは、簡単には測れない」
「器用だろ? こんなもんじゃないぜ」
ディータが呪文を唱える。
二匹の蛇は、狼へと姿を変えた。
赤黒く魔法で光るその二頭は、同時に大地を蹴った。
とりあえず先に、その一匹を弾き飛ばす。
群衆の中に向かったそれは、すぐにディータが回収した。
残るは一匹。
「反撃してこいよ。どうして何もしない。まさかそこで立ってるだけが、精一杯ってわけでもないんだろ?」
どうしよう。
何の呪文で対抗しようか。
昔の使い魔を出す?
魔力を擬態化した、コイツの使っているようなものではない、本物のモンスターだ。
どこにいったっけ。
召喚したところで、今さら言うこと聞いてくれるかな。
「そういえば、俺にもちゃんとした使い魔がいたなーって」
俺は静かに目を閉じ、印を結ぶ。
「お前に使い魔? マジかよ。モンスターと契約を結ぶには、それなりの宣誓か能力が……」
「そうだよ。お前のその、なんちゃって使い魔じゃない、本物の魔物たちだ」
呪文を唱える。
『この声に覚えのある者どもよ、我の元へ集え。いにしえの約束を果たすときが来た』
魔力を帯びた呪文は言霊となり、世界へ広がってゆく。
大地が揺れ始めた。
「なっ、お前。そんなセリフ吐いたところで、どんなヤツが来るってんだよ」
街全体が揺れている。
それを覆う、空気までもがふるえた。
予兆だ。
これはエルグリム復活の予兆として、再び世界に轟き、恐怖として響き渡るだろう。
静かな風が、目の前を横切る。
「……。ダメか」
だがそれは、一瞬にして平常を取り戻してしまった。
返事はない。
あぁ、俺が死んだ時に、一緒に全部、狩り尽くされてしまったんだな……。
「お、驚かすなよ。テメー!」
周囲を取り囲む野次馬までもが、怯えから解放された、安堵のため息をもらす。
魔力によって形作られただけの使い魔は姿を消し、それを呼び出すカードだけが地面に落ちていた。
「おいおいどうした? 俺のまでビビって、消えちまってんじゃねぇか」
ディータはそれを拾うと、もう一度印を結ぶ。
「お前まさか、本気で魔物たちを呼び出せるとか、思ってたワケじゃないよな」
「呼び出せる……。と、思った」
「ふん。その魔力の強さは認めるが、本当の使い魔ってのは、呼び出す前に契約が必要なんだ」
「知ってるよ。一度は従えないといけない」
「懐かせないとな」
「うん」
ディータは印を結ぶために組んだ手の奥から、視線をチラリとのぞかせた。
「は? マジで呼び出せるとか、思ったのか?」
魔法使いの目が、じっと俺を見つめる。
「あぁ、そうだよ」
実に残念だ。
「本気で?」
「本気で」
「マジか」
「マジだ」
俺たちをぎっしりと取り囲む群衆の奥から、不意に騒ぎ声が聞こえてきた。
それらを蹴散らし、銀の甲冑が飛び込んでくる。
聖剣士たちだ。
「なんだこの騒ぎは! って、またお前かディータ。いい加減にしろ」
「あぁ? 今回のは、見世物じゃねえよ。どっか行ってろ」
「あれだけの魔力を放出しておいて、知らんぷりが出来るか」
「やかましい。手出しすると、タダじゃ済まねぇぞ」
その言葉にたじろぐ聖剣士たちの中で、ただ一人が剣を抜いた。
はめ込まれた石に、呪いがかかっている。
魔剣だ。
「いつでもどこでも、この街じゃお前が騒ぎの原因だ。いい加減、大人しくしろ」
その男はチラリと俺を見たあとで、すぐに視線をディータに戻す。
「あの地震はなんだ。お前がやったのか」
「あぁ? ……。あぁ、まぁちょっと新しい呪文を試してみたけど、あんま上手くいかなかったなぁって話しだ」
「なぜ街中で騒ぐ。あれほど迷惑はかけるなと……」
「所詮しがない占い師だ。日銭を稼いでなにが悪い」
この聖剣士の目は、黒っぽい茶色をしている。
魔道士ではない。
「今度騒ぎを起こせば、次はないと警告してあったはずだ。覚悟は出来ているだろうな」
聖剣士は呪文を唱えた。
魔力を吸収するよう石に指示を出している。
剣にはめ込まれた魔石が黒く光った。
こんな剣を扱えるのは、ただの聖剣士ではない。
そしてその剣も、ただの剣ではない!
構えた剣が宙を斬る。
ただそれだけで、ディータの張った結界が崩れてゆく。
「もう魔道士の時代は終わったんだ。大魔王エルグリムを倒せると予言した、ユファさまから祝福を受けた、吸魔の剣だ。お前らごとき占い師風情が、俺に勝てると思うな」
「そういえばお前とは、一度ちゃんと勝負しないといけなかったな」
ディータが呪文を唱える。
攻撃魔法だ。
小さな火の玉が、聖剣士に襲いかかる。
その剣が火に触れた瞬間、炎は刃を伝い魔石に吸い込まれてゆく。
「さぁ、今度こそ牢に繋がれ、正当な処罰を受けるがいい」
剣士の呪文。
魔石の色が黒から赤に変わった。
とたんに剣は、炎に包まれる。
相手の魔力を奪い、それを自らの力に変える……魔剣だ。
「この剣の前では、どんな魔法も意味を成さない。お前もいつまでも、手品に夢見る大魔王ではいられないぞ」
「魔法は手品じゃねぇ」
「もちろん手品じゃないさ。だがその使い方を、間違えるなと言っている」
ディータは呪文を口ずさむ。
相手の動きを封じる魔法か?
俺は足元に落ちていた小石を拾った。
「所詮、実体である肉体の動きには、勝てないと言ってるんだ」
聖剣士は、炎の剣を構える。
『蜘蛛の巣よ、魔剣士の動きを止めろ』
ディータの手から、緑の網が放たれる。
剣士は魔剣を振るった。
その炎は、蜘蛛の巣を焼き落とす。
刃の切っ先が、ディータの首元を捕らえた瞬間、俺の投げた石はその刀身を弾いた。
「ふん。確かにその剣は、大魔道士エルグリムを倒した剣のようだ」
「……。魔法使いの子供か……」
その剣士は、俺を見下ろす。
「子供でも、コイツに加勢するなら容赦はない」
なにが聖剣士だ。魔剣だ。
お前のその剣こそ、呪われていることを教えてやろう。
「おい。ガキはさっさと、どっか逃げてろ」
「詐欺師ユファの加護だと? そんな物を振り回しありがたがる連中に、何を恐れることがある」
呪文を唱える。
俺の目の前でそんな剣を振るったことを、後悔させてやる。
「おい! やめろ!」
魔力解放。
激しい力が俺の体を貫通し、天から大地を貫く。
燃え上がる碧い緑の炎柱に体が包まれた。
「無茶しすぎだ! それじゃあ、お前の体がもたない!」
聖剣士は呪文を唱えている。
魔石の色が赤から黒に変わった。
その程度の石で、俺の力を奪うつもりか?
銀の鎧に身を包んだ聖剣士が、魔剣を振るった。
「やめろ!」
ディータが飛び出す。
俺は標準をその聖剣士に定めた。
『滅びの声を聞け』
ディータが結界を張る。
それに弾かれた俺の波動弾は、そのまま俺に戻ってきた。
「バカ! ちょっとは考えろ!」
視界がぼやける。
あぁ、またやってしまった。
本当にこの体には、未だに慣れない。
聖剣士が慌てた顔で駆け寄ってくる。
その剣を鞘に収めたから、まぁいっか。
俺は誰かの腕に抱き留められると、そのまま意識を失った。