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008_公爵屋敷
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騎士イーサンについていくと、立派な屋敷に入った。信じられないほどの大きさの屋敷に、眩暈を覚える弾路だった。
玄関を入ると、燕尾服を来た執事然とした老齢な人物が現れて外套を預かってくれる。
(いざとなったら逃げよう。外套なんてまた買えばいいんだ。問題はどうやって逃げるかだ。屋敷内の配置を覚えておかないとな……)
「広いお屋敷ですね……」
「まあ、このガーランドを治めているガルバー公爵閣下のお屋敷だからね」
「へ?」
「あれ、言ってなかったっけ? ダンジが助けたのは、ガルバー公爵閣下その人だよ」
イーサンがヘラヘラと笑う。
「あの、僕、お腹痛くなって来ましたので……」
帰らせてもらいますと言おうとするが、イーサンに腕を掴まれる。
「ここでダンジを帰したら、僕が叱られるじゃないか。勘弁してよ」
「………」
残念ながら逃がしてくれないようだ。
豪華な家具ばかりの応接室に通された時には、外は真っ暗になっていた。
昼に菓子パンを食べたきりの弾路の腹が鳴る。
(お腹空いたな……)
扉が開き、イーサンを引き連れた妙齢な女性が入ってきた。
弾路は飛び上がるようにソファーから立ち上がり、直立不動の姿勢を取った。
(す、すごい美人だ……。この女性が公爵様?)
女性の身長は一六〇センチでスタイルが良く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
赤毛は絹のように艶やかでしなやか。品の良い鼈甲の髪留めを使って後部で束ねている。
着ているドレスは薄い紫で、品の良いものだ。肘まである黒いレースの手袋が、妙に色っぽさを感じさせる。
「待たせたな」
「い、いえ」
女性は弾路の反対側のソファーに座り、足を組んだ。ドレスの裾から見える足首はとても細かった。
「そう硬くならずとも良い。私がこの屋敷の主の、イリア・フォン・ガルバーだ。公爵をしている」
「ダンジです。よろしくお願いします」
直立不動のまま自己紹介する弾路。緊張しているのがイリアたちにありありと分かる姿だ。
「うむ、ダンジか。今日は助かった。座りたまえ」
「は、はい。大したことはしてませんので」
弾路はソファーに座るが、背もたれに背をつけず緊張の面持ちで答えた。
「褒美をとらせる。何か望みはあるか。できる範囲のことで叶えてやろう」
褒美と言われて弾路は困った。こういう時は断ったほうがいいのか、断ったら失礼にあたるか分からないのだ。
「今日はこの屋敷に泊まっていきなさい。褒美については明日聞くから、ゆっくり考えればいい」
「あ、いえ、宿屋に泊まりますから」
「構わぬ。泊まっていけ」
「……はい」
イリアの目力に気圧されて、いいえとは言えなかった。
イリアが部屋を出て行くと、弾路は蒟蒻のようにふにゃふにゃと背もたれにもたれかかった。
「はぁ……緊張したな」
サマンサのような王女よりも、イリアのほうが緊張した。イリアには弾路を緊張させる美しさと凛々しさがあったのだ。
イリアが纏う気品や品格、そして神々しさとも言うべき雰囲気はサマンサなどと比べるべくもなかった。弾路はイリアこそが貴族なのだと感じていた。
「ダンジ様。風呂の用意が整いましたので、こちらへ」
外套を預かった執事が弾路を促す。
「え、風呂!? 風呂があるのですか?」
この世界に召喚されて、いきなり森の中で殺されかけ捨てられた。三日も森の中で彷徨い、やっとこの町に辿りついた弾路は薄汚れていた。
「はい。当家自慢の風呂にございます」
「やったーっ!」
風呂に入れるとは思ってもいなかっただけに、弾路は飛び上がって喜んだ。弾路のその姿に執事は柔和な笑みを浮かべて見つめる。
「こちらになります」
執事は廊下で控え、代わりに青い髪のメイドが脱衣室についてくる。
「あ、あの……」
「お着替えをお手伝いいたします」
(うら若きメイドに着替えを手伝ってもらうなんて、ハードルが高すぎる!)
「だ、大丈夫です。一人でできますから」
「これはわたくしの仕事ですから」
メイドが困惑顔をし、目を潤ませる。
「仕事をしないと、わたくしはクビになってしまいます。どうか、わたくしにお慈悲を」
「お慈悲って……」
弾路には目を潤ませた美しい女性を拒絶することができなかった。
(はうっ……これが異世界の貴族の屋敷のルールなのか!? 僕にはハードルが高すぎるだろ!)
断り切れなかった弾路は、三日間着たパーカー、Tシャツ、ジーパン、靴下。メイドに脱がせてもらう。
騎士に剣で切られた傷痕は、かなり塞がっている。痛みもほとんどない。この世界では傷の治りが早いように、弾路は感じていた。
その傷痕を見たメイドは一瞬だけ目を見開いたが、何も言わずにジーパンを脱がし始めた。
メイドがパンツに手をかけたところで、弾路は後ずさった。
「これは自分でできますから」
「わたくしの仕事なので……」
(うるうるとした上目遣いは卑怯です!)
弾路は諦めて、なんとでもなれ! と羞恥心を捨てた。
素っ裸になった弾路が、浴室に入る。
どこかの温泉宿の風呂かと間違えそうな石造りの大浴場である。
「これは凄い」
そう言った弾路の後ろに気配がする。
弾路が振り向くと、そこにはメイドが立っていた。しかも、一糸纏わぬ姿であった。
「えぇぇぇぇっ!?」
「お背中を流させていただきます」
「いやいやいや! 大丈夫ですから!」
「仕事ですから……」
うるうる。
(それは卑怯だぁぁぁぁぁぁぁ……)
弾路はうな垂れて諦めた。
(あぁぁ……。こんなことって……)
弾路はなすがまま、されるがまま。
アキバに居るメイドとは全く違う、本場(?)のメイドのテクニックを知ってしまった。
008_公爵屋敷
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騎士イーサンについていくと、立派な屋敷に入った。信じられないほどの大きさの屋敷に、眩暈を覚える弾路だった。
玄関を入ると、燕尾服を来た執事然とした老齢な人物が現れて外套を預かってくれる。
(いざとなったら逃げよう。外套なんてまた買えばいいんだ。問題はどうやって逃げるかだ。屋敷内の配置を覚えておかないとな……)
「広いお屋敷ですね……」
「まあ、このガーランドを治めているガルバー公爵閣下のお屋敷だからね」
「へ?」
「あれ、言ってなかったっけ? ダンジが助けたのは、ガルバー公爵閣下その人だよ」
イーサンがヘラヘラと笑う。
「あの、僕、お腹痛くなって来ましたので……」
帰らせてもらいますと言おうとするが、イーサンに腕を掴まれる。
「ここでダンジを帰したら、僕が叱られるじゃないか。勘弁してよ」
「………」
残念ながら逃がしてくれないようだ。
豪華な家具ばかりの応接室に通された時には、外は真っ暗になっていた。
昼に菓子パンを食べたきりの弾路の腹が鳴る。
(お腹空いたな……)
扉が開き、イーサンを引き連れた妙齢な女性が入ってきた。
弾路は飛び上がるようにソファーから立ち上がり、直立不動の姿勢を取った。
(す、すごい美人だ……。この女性が公爵様?)
女性の身長は一六〇センチでスタイルが良く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
赤毛は絹のように艶やかでしなやか。品の良い鼈甲の髪留めを使って後部で束ねている。
着ているドレスは薄い紫で、品の良いものだ。肘まである黒いレースの手袋が、妙に色っぽさを感じさせる。
「待たせたな」
「い、いえ」
女性は弾路の反対側のソファーに座り、足を組んだ。ドレスの裾から見える足首はとても細かった。
「そう硬くならずとも良い。私がこの屋敷の主の、イリア・フォン・ガルバーだ。公爵をしている」
「ダンジです。よろしくお願いします」
直立不動のまま自己紹介する弾路。緊張しているのがイリアたちにありありと分かる姿だ。
「うむ、ダンジか。今日は助かった。座りたまえ」
「は、はい。大したことはしてませんので」
弾路はソファーに座るが、背もたれに背をつけず緊張の面持ちで答えた。
「褒美をとらせる。何か望みはあるか。できる範囲のことで叶えてやろう」
褒美と言われて弾路は困った。こういう時は断ったほうがいいのか、断ったら失礼にあたるか分からないのだ。
「今日はこの屋敷に泊まっていきなさい。褒美については明日聞くから、ゆっくり考えればいい」
「あ、いえ、宿屋に泊まりますから」
「構わぬ。泊まっていけ」
「……はい」
イリアの目力に気圧されて、いいえとは言えなかった。
イリアが部屋を出て行くと、弾路は蒟蒻のようにふにゃふにゃと背もたれにもたれかかった。
「はぁ……緊張したな」
サマンサのような王女よりも、イリアのほうが緊張した。イリアには弾路を緊張させる美しさと凛々しさがあったのだ。
イリアが纏う気品や品格、そして神々しさとも言うべき雰囲気はサマンサなどと比べるべくもなかった。弾路はイリアこそが貴族なのだと感じていた。
「ダンジ様。風呂の用意が整いましたので、こちらへ」
外套を預かった執事が弾路を促す。
「え、風呂!? 風呂があるのですか?」
この世界に召喚されて、いきなり森の中で殺されかけ捨てられた。三日も森の中で彷徨い、やっとこの町に辿りついた弾路は薄汚れていた。
「はい。当家自慢の風呂にございます」
「やったーっ!」
風呂に入れるとは思ってもいなかっただけに、弾路は飛び上がって喜んだ。弾路のその姿に執事は柔和な笑みを浮かべて見つめる。
「こちらになります」
執事は廊下で控え、代わりに青い髪のメイドが脱衣室についてくる。
「あ、あの……」
「お着替えをお手伝いいたします」
(うら若きメイドに着替えを手伝ってもらうなんて、ハードルが高すぎる!)
「だ、大丈夫です。一人でできますから」
「これはわたくしの仕事ですから」
メイドが困惑顔をし、目を潤ませる。
「仕事をしないと、わたくしはクビになってしまいます。どうか、わたくしにお慈悲を」
「お慈悲って……」
弾路には目を潤ませた美しい女性を拒絶することができなかった。
(はうっ……これが異世界の貴族の屋敷のルールなのか!? 僕にはハードルが高すぎるだろ!)
断り切れなかった弾路は、三日間着たパーカー、Tシャツ、ジーパン、靴下。メイドに脱がせてもらう。
騎士に剣で切られた傷痕は、かなり塞がっている。痛みもほとんどない。この世界では傷の治りが早いように、弾路は感じていた。
その傷痕を見たメイドは一瞬だけ目を見開いたが、何も言わずにジーパンを脱がし始めた。
メイドがパンツに手をかけたところで、弾路は後ずさった。
「これは自分でできますから」
「わたくしの仕事なので……」
(うるうるとした上目遣いは卑怯です!)
弾路は諦めて、なんとでもなれ! と羞恥心を捨てた。
素っ裸になった弾路が、浴室に入る。
どこかの温泉宿の風呂かと間違えそうな石造りの大浴場である。
「これは凄い」
そう言った弾路の後ろに気配がする。
弾路が振り向くと、そこにはメイドが立っていた。しかも、一糸纏わぬ姿であった。
「えぇぇぇぇっ!?」
「お背中を流させていただきます」
「いやいやいや! 大丈夫ですから!」
「仕事ですから……」
うるうる。
(それは卑怯だぁぁぁぁぁぁぁ……)
弾路はうな垂れて諦めた。
(あぁぁ……。こんなことって……)
弾路はなすがまま、されるがまま。
アキバに居るメイドとは全く違う、本場(?)のメイドのテクニックを知ってしまった。