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 003_僕のクラスは【銃弾】ではないです
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「お待ちになって」
 立ち去ろうとした弾路を呼び止めたのは、第二王女のエリザベスだ。
「巻き込まれたあなたのクラスを聞いてもいいですか」
 エリザベスは巻き込まれた者でも、クラスの確認はしたほうがいいと思った。
「およしなさい、エリザベス」
「あら、いいじゃないですか、お姉様」
「カミラまで……」
 カミラも弾路のクラスが気になった。
「はぁ……分かったわ」
 サマンサは弾路の前に立った。

「あなたのクラスを仰い」
「えーっと……僕は【弾丸───」
「弾丸とはなんですの?」
 サマンサは弾路の言葉を最後まで聞かず、食い気味に弾丸のことを聞いた。巻き込まれた中年男性の言葉を最後まで聞く時間が勿体ないと思ったのだ。

「銃に込めて使うものです」
「銃とはなんですの?」
「え? ……銃はないのですか?」
 サマンサの眉間にシワが寄る。
「聞いたことがありませんわ」
「拳銃とかライフルも?」
「ええ、聞いたことないですわ」
 この世界には銃がなかった。銃がないから、弾丸も知られていない。
(マジですか……)

「つまり、あなたのクラスはこの世界では役に立たないということですね。もういいわ。リーズ大臣、連れて行きなさい」
「はい。それではダンジ殿、行きましょう。サマンサ殿下。エリザベス殿下、カミラ殿下、それに三勇者様、これにて失礼いたします」
 リーズ大臣が歩き出すと、弾路は三人の姫に頭を下げてから歩き出した。

「待てよ、オッサン!」
 今度は【剣の勇者】ユウヤに呼び止められた。
「魔王は俺たちが必ず倒す。オッサンが安心して暮らせるようにしてやるからな」
「え?」
 ユウヤの以外な言葉に、弾路は呆けてしまった。

「おう、魔王なんざ、俺たちがぶちのめしてやるから、オッサンは安心していいぞ」
「ユウヤとソウジだけにいい恰好はさせねぇぜ。何か困ったことがあったら俺に言えよ。オッサン」
 ソウジとヒロシも弾路を気遣う言葉をかけた。
 この三人は見た目は派手で他者を気にしない言動が多い。それに口の利き方も知らないが、決して悪人ではない。むしろ、善人の部類に入るだろう。

 喧嘩を売られればそれを買って相手をボコる三人だが、決して自分たちから喧嘩を売ったことはない。弱い者に一方的な暴力を振るったこともないし、誰かがイジメられていたらイジメている側の奴らをボコり、イジメられるということがどういうことかを教えてやる。
 正義感があって腕力もある。だから、三人が勇者に選ばれて召喚されたのだ。勇者の資質がある者が選ばれ、召喚されるのである。
 そんな召喚に何を間違ったか、弾路は巻き込まれてしまった。

「ありがとう。三人の活躍を陰ながら応援しています」
 目を潤ませた弾路は深々と頭を下げた。
 学生時代にこの三人に会っていたら、違った人生が送れたかもしれない。しかし、時間は巻き戻せない。
 今は三人の優しさに感謝する。
「「「応! 元気でやれよ!」」」
 三人の勇者は爽やかな笑みで弾路を見送った。

 リーズ大臣について長い廊下を歩く弾路。行きついたところには、馬車があった。
「ダンジ殿。これを」
 リーズ大臣は懐から革の小袋を取り出して差し出してきた。
「これは?」
「これだけあれば、一年は暮らせるはずです。あの馬車に乗り、宿に向かいなさい。そこで今後のことを考えると良いでしょう」
(一年も暮らせるお金をもらえるとは思っていなかったな。もしかしたら殺されるかもと思っていたけど、この世界の人はいい人が多いのかもしれない)

「宿屋は私の息がかかっている者が営んでいます。三カ月は宿代が不要になるように申し伝えます」
「三カ月もいいのですか!?」
 一年間暮らせるお金をもらい、さらに宿代が三カ月無料になる。何か裏があるのではと勘繰ってしまう。
「ダンジ殿はこちらの都合で巻き込まれてしまったのだ。すまないと思っている」
(視線が鋭いから冷たい人かと思っていただけに、このギャップが新鮮だな……)

「今後のことが決まったら、宿の者を通じて私に連絡しなさい。多少の配慮ならできるでしょうから」
 リーズ大臣に感謝して弾路は馬車に乗り込んだ。
 乗り慣れない馬車の乗り心地は悪かった。それでも三勇者やリーズ大臣の優しさに触れて心は温かかった。

「しかし、この世界に銃はないのか……」
 弾路は【弾丸】を作ることができるクラスだ。弾丸があっても銃がなければ、戦闘で使えない。
「これではあの王女様に役立たずだと思われてもしょうがないか」
 溜息が出る。

「でも、僕のクラスは【弾丸】じゃないんだけど……」
 弾路のクラスは【弾丸の勇者】。そう、弾路もまた勇者なのである。巻き込まれたのは確かだが、四人目も勇者だとはさすがに誰も思わなかったようだ。
 それというのも、これまでに幾多の召喚が行われてきたのだが、稀に巻き込まれた者が現れるのだ。
 これまで召喚に巻き込まれた者たちは、勇者ではなかった。そういった経緯から今回もそうだと決めつけられていたのだ。

「でも、僕には戦いなんて無理だから、こうなって良かったのかな」
 サマンサが良い感じに勘違いしてくれたおかげで、勇者だということが知られずに済んだ。サマンサの対応には不満もあるが、反面感謝もある。
「人生七〇年だとしても、あと四〇年もこの世界で暮らさないといけないのか」
 国王は元の世界に帰す手段がないと言った。この世界で少なくない時を過ごさないといけない。
 魔王が存在し、魔族や魔物も存在する。それを考えると、戦いが普通にある世界だと容易に想像できた。
「異世界でスローライフも悪くないよね」
 ライトノベルのようだと、はははと力なく笑った。