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029_死の森合同作戦(八)
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「これでよろしいでしょうか?」
ビンセントは高さ一〇メートル程の高台を用意した。土でできたもので、公爵家の魔法士が土魔法で作ったと説明した。
高台の上は平坦で三メートル四方の四角になっている。手摺りなど落下を防止するものはないが、それは問題ではない。
(こんなものをすぐに用意できるなんて、さすがはビンセントさん!)
弾路の中でできる執事のビンセントへのリスペクトがドンドン高まっていく。
緩やかな階段を上った先の高台の上は、とても見晴らしが良い。
死の森の境界まではおよそ二〇〇メートル。これなら問題なく狙撃できる。
「銃という武器を使うのだな?」
イリアは弾路の戦闘力を見ることができると、鋭い視線を向けている。
「僕にはそれしかないからね」
弾路は【ストック】から狙撃銃を取り出して、同時に取り出した二脚をセットした。
まだ試射さえ終わってない五・五六×四五ミリ NATO弾用ボルトアクション式狙撃銃にスコープはない。
「それはなんだ? 以前見た銃とは違うが?」
「これは狙撃銃だよ。以前イリアが見たものはあまり射程距離が長くないけど、これは長距離用の銃になるんだ」
「ほう、長距離用の武器か」
(その距離によって銃の大きさが違うのね。魔法も下位のものは近いところしか攻撃できないから、それだけ大威力の攻撃なのかな?)
マガジンの弾丸を確認し狙撃銃にセットした弾路は、イリアたちに下がるように言った。
この高台の上にイリアの他にイーサン、ビンセント、そしてイスバハン子爵が居る。
「大きな音が出るから、驚かないでね」
「分かった」
弾路は高台の上でうつ伏せに寝そべり、二脚と自分の肩で狙撃銃を固定する。
(風向きは右から左、微風。そこまで影響があるものではないな)
森から殺気のようなものを感じる。そろそろエルダートレントが出て来るはずだが、不思議と怖さは感じない。
狙撃銃がまるで体の一部のように自然で居られた。
冒険者たちと兵士たちは高台の左右に展開し、弾路が撃ち漏らしたエルダートレントを迎え撃つ体勢だ。
森を見張っていた冒険者が両手を上げて激しく振って合図を送ってきた。
(来る!)
木々の間から、その木よりも大きな木が出て来た。
根をくねらせ器用に進むそれは、高さ二〇メートル、最も太い場所では直径三メートルもある巨木だ。ただし、幹にはしわがれた老人の顔がある。
「あれがエルダートレント……」
イリアのつぶやきが聞こえた。
たった一体で大都市を滅ぼせるSSランクの魔物が、七体も死の森から出て来る。
ここで倒さなければイリアが治めるガーランドに被害が出る。倒せない相手ではないが、多くの犠牲が伴うだろう。イリアにとっては絶望の権化なのかもしれない。それを考えただけでイリアは身震いした。
「ダンジ……」
イリアが縋るように弾路の名を呼ぶ。その悲壮感溢れる声に、弾路は首を回してイリアに微笑む。
「大丈夫。なんとかなるよ」
その言葉に、イリアは救われた気がした。
(イリアのためにもここで全て倒す!)
照星と照門を合わせ、エルダートレントの顔を狙う。
幸いにもエルダートレントは巨体で、動きも遅い。二〇〇メートル離れていても、外すほうが難しいだろう。
狙撃銃を扱うのは初めてだが、何も心配ない。そう思えた。
(やれる。僕ならやれる。そう信じるんだ)
トリガーに人差し指をかけ、引く。
ダンッ。
軽い発射音と同時に、肩に衝撃がある。
弾丸は空を斬り裂きエルダートレントへと向かって飛翔し、その幹に命中した。
バキッ。
命中した弾丸がその威力を幹へ伝え、大きく抉った。
エルダートレントの顔よりもやや右下に直径四〇センチほどの穴ができた。かなり深いが貫通はしていない。それでも大きなダメージを与えたのが分かる。
エルダートレントはダメージを受け、体をくねらせて怒った。
しかし、どこから攻撃されたのか分からないから、地面に枝を打ちつけて怒りを露わにした。
エルダートレントが枝で地面を打ち、土埃が派手に舞い上がる。
弾路は狙撃銃のボルトを操作して薬莢を排出し、装弾する。
エルダートレントにダメージを与えた喜びはない。むしろ貫通できなかったことに舌打ちしたいくらいだ。
それに顔を狙ったのに、五〇センチはズレた。風の影響よりも銃の癖だと思われる。
(修正して、斜め左上を狙い……)
土煙のおかげで狙いがつけづらい。
(今だ!)
土煙の合間から見えた顔に向かって、引金を引く。弾丸は修正された軌道を辿り、エルダートレントの顔を抉った。
「ギィィィィィィィッ……」
エルダートレントは顔面を潰され、後方へ倒れていく。トレントの顔はそのまま弱点でもあるため、今のは致命傷になっただろう。
普通、熟練の魔法使いの攻撃でも、射程距離は一〇〇メートルだ。その距離は同時にエルダートレントの射程距離内でもある。そういった理由からエルダートレント戦で魔法使いは後方に陣取っていても危険だ。
だが弾路の狙撃銃はその距離をはるかに超える長距離から狙撃できる。反撃なく一方的に攻撃できるのだ。これは非常に大きなアドバンテージである。
「や、やった……」
イリアが胸の前で両手を握って、その光景に目を潤ませた。
(やっぱりダンジは勇者だったわ! こんな距離からあのエルダートレントをたった二発で倒すなんて、勇者はさすがね!)
だが、エルダートレントは一体ではない。まだ六体も残っている。
その六体がほぼ同時に森から姿を現した。
(一度に来るのは、勘弁してほしいよ)
029_死の森合同作戦(八)
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「これでよろしいでしょうか?」
ビンセントは高さ一〇メートル程の高台を用意した。土でできたもので、公爵家の魔法士が土魔法で作ったと説明した。
高台の上は平坦で三メートル四方の四角になっている。手摺りなど落下を防止するものはないが、それは問題ではない。
(こんなものをすぐに用意できるなんて、さすがはビンセントさん!)
弾路の中でできる執事のビンセントへのリスペクトがドンドン高まっていく。
緩やかな階段を上った先の高台の上は、とても見晴らしが良い。
死の森の境界まではおよそ二〇〇メートル。これなら問題なく狙撃できる。
「銃という武器を使うのだな?」
イリアは弾路の戦闘力を見ることができると、鋭い視線を向けている。
「僕にはそれしかないからね」
弾路は【ストック】から狙撃銃を取り出して、同時に取り出した二脚をセットした。
まだ試射さえ終わってない五・五六×四五ミリ NATO弾用ボルトアクション式狙撃銃にスコープはない。
「それはなんだ? 以前見た銃とは違うが?」
「これは狙撃銃だよ。以前イリアが見たものはあまり射程距離が長くないけど、これは長距離用の銃になるんだ」
「ほう、長距離用の武器か」
(その距離によって銃の大きさが違うのね。魔法も下位のものは近いところしか攻撃できないから、それだけ大威力の攻撃なのかな?)
マガジンの弾丸を確認し狙撃銃にセットした弾路は、イリアたちに下がるように言った。
この高台の上にイリアの他にイーサン、ビンセント、そしてイスバハン子爵が居る。
「大きな音が出るから、驚かないでね」
「分かった」
弾路は高台の上でうつ伏せに寝そべり、二脚と自分の肩で狙撃銃を固定する。
(風向きは右から左、微風。そこまで影響があるものではないな)
森から殺気のようなものを感じる。そろそろエルダートレントが出て来るはずだが、不思議と怖さは感じない。
狙撃銃がまるで体の一部のように自然で居られた。
冒険者たちと兵士たちは高台の左右に展開し、弾路が撃ち漏らしたエルダートレントを迎え撃つ体勢だ。
森を見張っていた冒険者が両手を上げて激しく振って合図を送ってきた。
(来る!)
木々の間から、その木よりも大きな木が出て来た。
根をくねらせ器用に進むそれは、高さ二〇メートル、最も太い場所では直径三メートルもある巨木だ。ただし、幹にはしわがれた老人の顔がある。
「あれがエルダートレント……」
イリアのつぶやきが聞こえた。
たった一体で大都市を滅ぼせるSSランクの魔物が、七体も死の森から出て来る。
ここで倒さなければイリアが治めるガーランドに被害が出る。倒せない相手ではないが、多くの犠牲が伴うだろう。イリアにとっては絶望の権化なのかもしれない。それを考えただけでイリアは身震いした。
「ダンジ……」
イリアが縋るように弾路の名を呼ぶ。その悲壮感溢れる声に、弾路は首を回してイリアに微笑む。
「大丈夫。なんとかなるよ」
その言葉に、イリアは救われた気がした。
(イリアのためにもここで全て倒す!)
照星と照門を合わせ、エルダートレントの顔を狙う。
幸いにもエルダートレントは巨体で、動きも遅い。二〇〇メートル離れていても、外すほうが難しいだろう。
狙撃銃を扱うのは初めてだが、何も心配ない。そう思えた。
(やれる。僕ならやれる。そう信じるんだ)
トリガーに人差し指をかけ、引く。
ダンッ。
軽い発射音と同時に、肩に衝撃がある。
弾丸は空を斬り裂きエルダートレントへと向かって飛翔し、その幹に命中した。
バキッ。
命中した弾丸がその威力を幹へ伝え、大きく抉った。
エルダートレントの顔よりもやや右下に直径四〇センチほどの穴ができた。かなり深いが貫通はしていない。それでも大きなダメージを与えたのが分かる。
エルダートレントはダメージを受け、体をくねらせて怒った。
しかし、どこから攻撃されたのか分からないから、地面に枝を打ちつけて怒りを露わにした。
エルダートレントが枝で地面を打ち、土埃が派手に舞い上がる。
弾路は狙撃銃のボルトを操作して薬莢を排出し、装弾する。
エルダートレントにダメージを与えた喜びはない。むしろ貫通できなかったことに舌打ちしたいくらいだ。
それに顔を狙ったのに、五〇センチはズレた。風の影響よりも銃の癖だと思われる。
(修正して、斜め左上を狙い……)
土煙のおかげで狙いがつけづらい。
(今だ!)
土煙の合間から見えた顔に向かって、引金を引く。弾丸は修正された軌道を辿り、エルダートレントの顔を抉った。
「ギィィィィィィィッ……」
エルダートレントは顔面を潰され、後方へ倒れていく。トレントの顔はそのまま弱点でもあるため、今のは致命傷になっただろう。
普通、熟練の魔法使いの攻撃でも、射程距離は一〇〇メートルだ。その距離は同時にエルダートレントの射程距離内でもある。そういった理由からエルダートレント戦で魔法使いは後方に陣取っていても危険だ。
だが弾路の狙撃銃はその距離をはるかに超える長距離から狙撃できる。反撃なく一方的に攻撃できるのだ。これは非常に大きなアドバンテージである。
「や、やった……」
イリアが胸の前で両手を握って、その光景に目を潤ませた。
(やっぱりダンジは勇者だったわ! こんな距離からあのエルダートレントをたった二発で倒すなんて、勇者はさすがね!)
だが、エルダートレントは一体ではない。まだ六体も残っている。
その六体がほぼ同時に森から姿を現した。
(一度に来るのは、勘弁してほしいよ)