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025_死の森合同作戦(四)
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野営は公爵と言えども贅沢な食事はできない。一般兵に較べればまだマシだが、スープと硬く焼き固められたパン、そして硬い肉がイリアの食卓に並ぶ。
たった数日の野営でありガーランドにも近い場所だから、イリアの一言で豪華な料理が出されるだろう。しかし、イリアはそれを良しとしない。
これは死の森の魔物を間引くだけでなく、戦争を想定した実戦訓練の場でもある。戦場で豪華な料理を食べる司令官に、部下たちはついてくるだろうか。公爵が日頃食べるような料理を戦場でも食べていたら、兵士たちの心は離れていくに違いない。
公爵であっても豪華な料理は食べない。一般兵とさほど変わらない携帯食を食べなければならない。他の貴族もイリアが質素な食事をしているのに、豪華な料理を食べるなどあり得ない。
「ふんっ。忌々しい行き遅れが」
そんな中にあって、ドルバス侯爵は肉汁が溢れるステーキや、手の込んだ料理を貪っている。
「行き遅れのくせに、生意気な」
その口をついて出てくるのは、イリアに対する悪口ばかりだ。顔見せの場で恥をかかされたことで、しばらくはイリアへの悪口が止まりそうにない。
「行き遅れなんだから、少しは大人しくしておけばいいものを」
行き遅れ以外にイリアの悪口が浮かんでこない。なんだかんだ言っても統治者としてイリアは優秀であり、容姿も悪くない。性格が悪いとか行き遅れくらいしか悪口が出てこないのだ。
イリアの性格の悪さの原因も、このドルバス侯爵が原因である。他の貴族たちに対してイリアは寛大な上司である。
だが、今回そんなイリアの粗が見つかった。弾路だ。
「相談役なんぞと言うが、あのガキを侍らしていたいだけであろう」
弾路のことを突っつけば、粗が出るはずだと肉汁がべったりとついた口を歪める。
「しかし、イリアも趣味が悪い。傍に置くならもっと美形にすればいいものを」
そう言うと、ドルバス侯爵の給仕をしている少年のお尻に手をやって嫌らしい手つきで撫でまわす。まだ成人(一五歳)もしていない少年への性的暴力が、このドルバス侯爵の趣味なのだ。
貴族の義務として血を残さなければならないことから正妻と数人の妾を持っているドルバス侯爵だが、囲っている美少年の数はその数倍にもなる。
「今日のワシは荒ぶっておるぞ。ぐへへへ」
合同作戦の最中だというのに、ドルバス侯爵の性欲は留まる所を知らない。
「あっ……」
脂ぎった顔を歪ませ美少年の腕を引っ張って、その膝の上に乗せる。
「今宵はたっぶりと可愛がってやるぞ」
「……はい」
美少年とてこのような脂ぎった醜い年寄に抱かれるのは嫌だ。だが、ドルバス侯爵には金がある。権力がある。断れば家族がどうなるか分からない。嫌でもこの醜い男に抱かれなければならないのだ。
ドルバス侯爵が美少年とよろしくやっている時、弾路は篝火に照らされて暗い夜道の中を歩いていた。イリアと共に食事をし、自分にあてがわれたテントへと向かっているのだ。
さすがにテントまでイリアと一緒ということはなかった。イリアは既成事実を作るために一緒でもいいと言ったが、そこはビンセントが止めた。結婚どころか婚約さえしてないイリアを傷物にするわけにはいかないのだ。
「久しぶりだな、ダンジ」
「あ、これはシャズナさん。お久しぶりです」
凛とした佇まいのシャズナ。篝火の炎がその銀髪を照らして、赤毛のように見える。
「さすがに驚いたぞ。ダンジが公爵のいい人とはな」
「はい? ……いやいやいや、僕は公爵様のいい人じゃないですよ」
「そうなのか? だが、公爵はダンジに好意を持っているようだぞ」
「えぇ……冗談は止めてくださいよ(笑)」
(どうやらダンジは公爵の視線に気づいていないようだな。あの目はダンジに恋する乙女なんだがな)
「ところでシャズナさんも戦うのですか?」
「私は現役をリタイアした身だから、後方支援だな」
「そうなんですね。後方支援でも怪我をしないように、気をつけてくださいね」
「そうなるようにしたいものだ。だが、死の森はとても危険な場所だ。周辺部でもBランクやAランクがうようよ居るような場所だからね。だから後方に居ても気を緩めてはいけないぞ、ダンジ」
「はい」
シャズナは知り合いの弾路の身を心配して声をかけた。だが、弾路に興味がないわけではない。
弾路が使う銃は、以前召喚された異世界の勇者から聞いたことがあるものだった。その威力はダンジョンの中で確認している。発射音は大きいが、威力はそこまでではなかった。
それに弾路の容姿だ。昔の勇者と同じ黒髪黒目をしている。もしかしたら昔の勇者の子孫かもしれないが、シャズナは弾路が勇者ではないかと考えている。もしくは巻き込まれた人だ。
ザイムディード帝国が勇者召喚を行ったという噂は聞かない。まだゴルディア国の勇者召喚は一般に公表されていないため、国境を越えて伝わっていない。
だから弾路の正体が気になっていた。そこにイリアの相談役として弾路がシャズナの前に現れた。やはり勇者に関係があるのだと、シャズナは推測しているのだ。
025_死の森合同作戦(四)
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野営は公爵と言えども贅沢な食事はできない。一般兵に較べればまだマシだが、スープと硬く焼き固められたパン、そして硬い肉がイリアの食卓に並ぶ。
たった数日の野営でありガーランドにも近い場所だから、イリアの一言で豪華な料理が出されるだろう。しかし、イリアはそれを良しとしない。
これは死の森の魔物を間引くだけでなく、戦争を想定した実戦訓練の場でもある。戦場で豪華な料理を食べる司令官に、部下たちはついてくるだろうか。公爵が日頃食べるような料理を戦場でも食べていたら、兵士たちの心は離れていくに違いない。
公爵であっても豪華な料理は食べない。一般兵とさほど変わらない携帯食を食べなければならない。他の貴族もイリアが質素な食事をしているのに、豪華な料理を食べるなどあり得ない。
「ふんっ。忌々しい行き遅れが」
そんな中にあって、ドルバス侯爵は肉汁が溢れるステーキや、手の込んだ料理を貪っている。
「行き遅れのくせに、生意気な」
その口をついて出てくるのは、イリアに対する悪口ばかりだ。顔見せの場で恥をかかされたことで、しばらくはイリアへの悪口が止まりそうにない。
「行き遅れなんだから、少しは大人しくしておけばいいものを」
行き遅れ以外にイリアの悪口が浮かんでこない。なんだかんだ言っても統治者としてイリアは優秀であり、容姿も悪くない。性格が悪いとか行き遅れくらいしか悪口が出てこないのだ。
イリアの性格の悪さの原因も、このドルバス侯爵が原因である。他の貴族たちに対してイリアは寛大な上司である。
だが、今回そんなイリアの粗が見つかった。弾路だ。
「相談役なんぞと言うが、あのガキを侍らしていたいだけであろう」
弾路のことを突っつけば、粗が出るはずだと肉汁がべったりとついた口を歪める。
「しかし、イリアも趣味が悪い。傍に置くならもっと美形にすればいいものを」
そう言うと、ドルバス侯爵の給仕をしている少年のお尻に手をやって嫌らしい手つきで撫でまわす。まだ成人(一五歳)もしていない少年への性的暴力が、このドルバス侯爵の趣味なのだ。
貴族の義務として血を残さなければならないことから正妻と数人の妾を持っているドルバス侯爵だが、囲っている美少年の数はその数倍にもなる。
「今日のワシは荒ぶっておるぞ。ぐへへへ」
合同作戦の最中だというのに、ドルバス侯爵の性欲は留まる所を知らない。
「あっ……」
脂ぎった顔を歪ませ美少年の腕を引っ張って、その膝の上に乗せる。
「今宵はたっぶりと可愛がってやるぞ」
「……はい」
美少年とてこのような脂ぎった醜い年寄に抱かれるのは嫌だ。だが、ドルバス侯爵には金がある。権力がある。断れば家族がどうなるか分からない。嫌でもこの醜い男に抱かれなければならないのだ。
ドルバス侯爵が美少年とよろしくやっている時、弾路は篝火に照らされて暗い夜道の中を歩いていた。イリアと共に食事をし、自分にあてがわれたテントへと向かっているのだ。
さすがにテントまでイリアと一緒ということはなかった。イリアは既成事実を作るために一緒でもいいと言ったが、そこはビンセントが止めた。結婚どころか婚約さえしてないイリアを傷物にするわけにはいかないのだ。
「久しぶりだな、ダンジ」
「あ、これはシャズナさん。お久しぶりです」
凛とした佇まいのシャズナ。篝火の炎がその銀髪を照らして、赤毛のように見える。
「さすがに驚いたぞ。ダンジが公爵のいい人とはな」
「はい? ……いやいやいや、僕は公爵様のいい人じゃないですよ」
「そうなのか? だが、公爵はダンジに好意を持っているようだぞ」
「えぇ……冗談は止めてくださいよ(笑)」
(どうやらダンジは公爵の視線に気づいていないようだな。あの目はダンジに恋する乙女なんだがな)
「ところでシャズナさんも戦うのですか?」
「私は現役をリタイアした身だから、後方支援だな」
「そうなんですね。後方支援でも怪我をしないように、気をつけてくださいね」
「そうなるようにしたいものだ。だが、死の森はとても危険な場所だ。周辺部でもBランクやAランクがうようよ居るような場所だからね。だから後方に居ても気を緩めてはいけないぞ、ダンジ」
「はい」
シャズナは知り合いの弾路の身を心配して声をかけた。だが、弾路に興味がないわけではない。
弾路が使う銃は、以前召喚された異世界の勇者から聞いたことがあるものだった。その威力はダンジョンの中で確認している。発射音は大きいが、威力はそこまでではなかった。
それに弾路の容姿だ。昔の勇者と同じ黒髪黒目をしている。もしかしたら昔の勇者の子孫かもしれないが、シャズナは弾路が勇者ではないかと考えている。もしくは巻き込まれた人だ。
ザイムディード帝国が勇者召喚を行ったという噂は聞かない。まだゴルディア国の勇者召喚は一般に公表されていないため、国境を越えて伝わっていない。
だから弾路の正体が気になっていた。そこにイリアの相談役として弾路がシャズナの前に現れた。やはり勇者に関係があるのだと、シャズナは推測しているのだ。