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 022_死の森合同作戦(一)
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 死の森合同作戦。それは、ガルバー公爵軍と冒険者ギルドが共同で行う魔物の間引き作戦のことだ。
 本来魔物のことは冒険者ギルドが差配するが、死の森はとても危険な場所であることから一年に一回だけは合同で魔物を間引くことになっている。
 弾路は友達のイリアの頼みで、公爵の相談役という中途半端な立場でその合同作戦に参加することになった。

 ビンセントから合同作戦のことを聞いた弾路は、鍛冶工房にこもった。
【銃器製作】レベル二は、自動拳銃が製作できるスキルだ。
 装弾できるのは九ミリ弾が最大で一五発だ。ただし単列弾倉(シングル・カラム)しか作ることができないから、一五発用の弾倉だとグリップから飛び出して不細工になる。
 それでも六発しか装弾できない回転式拳銃の二・五倍の弾丸を装弾できるのは大きい。

 半月しかないから、とにかく納得いく自動式拳銃を作り上げるように試行錯誤した。
 寝る間も惜しんで自動式拳銃を作りまくったことで、納得できるものができた。

 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+
 懐瑠弾路(三〇)
 クラス 【弾丸の勇者(五〇)】
 スキル 【弾丸創造(二)】【異世界通販(二)】【銃器製作(三)】
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 根を詰めて自動式拳銃を作っていたら、なんと【銃器製作】レベルが上がってしまった。たった半月でスキルレベルが上がるとは思っても居なかった弾路は、ステータスを見て目が点になった。
「えぇぇぇ……」
 レベル三では弾丸の口径や装弾数は今までのままだが、狙撃銃が製作可能になった。もちろん、スコープも造れるのだ。
 サプレッサーやスピードローダー、二脚や三脚などのアクセサリーも造れるようになり、それが逆に弾路を困惑させた。

「色々造れるけど、死の森に向かうの明日なんだよね……」
 レベルが上った以上は狙撃銃を作ってみたいが、すでに夜中である。このまま狙撃銃を作ってしまったら、徹夜で戦場に向かうことになる。
「……まあいいっかぁ! なるようになるさ」
 狙撃銃を造るという欲求に負けた弾路であった。

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 公爵屋敷警護の責任者であるイーサンが、門の前で弾路を迎えた。
「おはよう……ございます……」
「大丈夫? 目の下にクマができているよ、ダンジ」
「徹夜しただけですから大丈夫」
「おいおい。遠征する前に徹夜とか……。死の森を舐めているわけじゃないよね?」
 イーサンは呆れ顔で訪ねた。

「大丈夫。二徹くらいなら平気ですから」
「……今何徹め?」
「……三徹」
「お前、アホだろ」
 イーサンの心の底からの声だった。

「そうかもしれないです。自分でもちょっとやり過ぎたかな、と反省してます」
「しっかりしてくれよ、相談役」
 イーサンと話しながら歩いていると、玄関へ到着。
 ビンセントが綺麗なお辞儀で弾路を迎えた。
「おはようございます。ダンジ様」
「おはようございます。ビンセントさん」
「お顔の色が優れないようですが、大丈夫でしょうか」
「三徹しただけだから大丈夫だと言ってるよ」
 イーサンが代わりに返事すると、ダンジは苦笑した。
 ビンセントは表情を変えずに、それはそれはと答える。
(ほう、これはチャンスですね。お嬢様に耳打ちしませんと。ふふふ)

 ビンセントがノックしてイリアの部屋の扉を開け、イーサンとダンジを先に入れる。
「ダンジ、来たか! ん、顔色が悪いぞ、大丈夫か」
 今日のイリアは軍服姿だった。赤に金の刺繍がしてある軍服の胸には、数々の勲章がある。
 いつものドレスよりもこちらのほうが似合っていると感想を持った弾路だが、軍服が似合うと言われて女性が喜ぶだろうかと考えた。
(多分ないと思うけど、ミリタリーオタクの人もいるからなぁ……言わずにやり過ごそう)
 似合っていると口にすることはなかった弾路だが、イリアは弾路に褒めてほしかったようで残念に思った。

「大丈夫、ちょっと寝不足なだけだから」
「寝不足になるほど遠征が楽しみだったのか? ダンジは子供だな。ははは」
 まったく見当違いなこと言うイリアだが、弾路にそれを否定する気力はない。笑ってそうですねと相槌を打った。

「このあと結成式があるが、そんな顔ではいかんな。おい、ダンジに化粧をしてやれ」
「え!?」
「そんな顔色では皆が心配するだろ。化粧で誤魔化すんだ」
「ちょ、イリア!?」
 弾路は要らないと言うが、イリアのメイドたちに捕まって化粧が施された。
 メイドたちが楽しそうに化粧道具を使っていたのは気のせいではないだろう。

「………」
 イリアが頬を膨らませ目じりを下げて笑いを堪えている。それを弾路が不満な表情で見つめる。
「ぷっ……似合っているじゃないか」
 まるで宝●歌劇の男役である。パープルのアイシャドーとピンクのチークが目立っている。
「実家に帰らさせてもらいます」
 弾路はソファーから立ち上がって、部屋を出て行こうとした。
「わー。すまん、すまん。でも、似合っているのは本当だぞ、ダンジ」
 イリアが慌てて謝罪するが、弾路の不機嫌は直らない。

 メイドが手鏡を出した。曇り一つない鏡面に映った弾路の顔は、確かに血色の悪さなど関係ないくらいに塗り固められていた。
「マジ勘弁……」
「分かった、分かった。真面目にやるように言うから」
 すぐにナチュラルメイクに変更され、化粧をしているように見えなくなった。男性貴族の中にはもっと塗りたくっている者も居るが、これなら弾路も違和感がない。

 イリアの化粧は全てメイドたちの手によるものだ。高位の貴族であるイリアのメイクを担当する者たちだけあって、その腕はプロフェッショナルと言っても過言ではないのである。