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 021_弾路、釘を刺して刺されて
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 朝一の日課にしている回転式拳銃の製作を終えた弾路は、ウッドデッキに出てロッキングチェアに腰かけて揺らした。
 タバコを咥えてジッポの蓋を開ける。キィーンッと良い音がする。なぜか分からないが、心が落ちつく音だ。
 シュポッ。火を点けて煙を吸い込む。
「ふーっ」
 弾路にとって至福のひと時だ。

(ステータス・オープン)

 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+
 懐瑠弾路(三〇)
 クラス 【弾丸の勇者(五〇)】
 スキル 【弾丸創造(二)】【異世界通販(二)】【銃器製作(二)】
 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+

「【銃器作成】のレベルが上がってる!」
 残念ながらダンジョンで倒している魔物は死の森で倒した魔物のように強くないことから、【弾丸の勇者】のレベルは上がっていない。
 それでも二日と開けずにダンジョンに入りながら、銃器をコツコツ作ってきた。【銃器製作】は使うだけでレベルが上がる生産タイプのスキルだと思って使い続けた。それがこれで実証できたのだ。

「ダンジ様。公爵閣下がお越しになりました」
「うん。リビングに通して」
 今日はイリアの訪問日。弾路は半分ほどに減ったタバコを【異世界通販】の【ダストボックス】に捨て、口臭ケアスプレーを口の中にシュッシュッと二回した。
 三〇オッサンの口臭で、イリアが不快な思いをしないようにとの配慮だ。特にタバコの後は気をつけている。

 イリアがリビングに入ってきた。
「ダンジ、来たぞ!」
「ようこそ、イリア」
 最初の頃はぎこちなかった呼び捨ても、最近は慣れたものだ。
 今日のイリアは淡い黄色のドレスである。美人のイリアを可愛らしく見せるもので、髪形も両サイドに団子を作って可愛いものになっている。

「昨日はイーサンがお腹を壊して休んでいたんだ。なのに今日はケロッとして、ダンジの家について来るんだぞ。私の護衛は部下に任せればいいと言っているのに、どう思う?」
 イリアはイーサンが食いしん坊だと主張した。ダンジから見たら、イーサンもイリアも食いしん坊だ。似たもの姉弟であるが、弾路は未だに二人が姉弟だとは知らない。

「ところで、今日は何を食べさせてもらえるのだ? 前回は牛丼なるものだったな。私はつゆだくが好きだし、漬物というものがいいアクセントだった。今日も楽しみだ」
 イリアは目をキラキラさせて、牛丼の美味しさを語った。

「食事の前に、イリアと僕は友達だよね」
「い、いきなりなんだ? 私と弾路は友達(以上)だぞ」
 友達の後の言葉が聞こえなかったが、友達で間違いないと弾路には聞こえた。
「友達なら僕に嘘をつかないよね」
「そ、そうだな……」
 イリアの眉間にシワが寄る。一体何が言いたいのか?

「イリア。君は僕に監視をつけているね?」
「「「っ!?」」」
 イリア、ビンセント、ミッシェルが息を飲む。
 なぜ分かったのか。監視の者たちはいずれも手練れのものたちだ。いくら勇者でも簡単にはバレないと考えていた。
「ははは……な、なんのことか……」
「イリア。僕たちは友達だよね」
「……そうだ、友達(以上)だ」
「だったら、正直に答えて」
「……悪かった。監視をつけていたのは私だ」
 弾路はやっぱりねと、納得して頷いた。

「イリアが僕のことを心配して見守ってくれるのは嬉しいけど、そういうのはちょっとね」
「………」
「今後は監視しないでほしいんだ」
「……分かった」
「ありがとう」
 弾路はイリアに微笑む。

「しかし、そんなに僕の料理が食べたいの?」
「はい?」
「僕が怪我をしたり死んじゃったら料理が食べられなくなるから見守ってくれていたんでしょ」
「「「………」」」
 勇者であり伴侶にしたいから監視していたのだが、弾路はイリアが食いしん坊だから見守ってくれていたと思っている。

「そ、そうなのだ! ははは……」
「もう、イリアは食いしん坊なんだから(笑)」
 弾路とイリアをなんとかくっつけようと、苦心してきたビンセントが目頭を熱くする。
 しかし、弾路の好みがよく分からない。女性には興味あるが、だからと言って特に興味を示さない。ミッシェルは若いと断るが、イリアに友達以上の感情はない。
 思い切ってイリアに色仕掛けをと以前は考えたが、かなりきわどいドレスを着たイリアに弾路は無反応。イリアにしてもそれ以上のアプローチはできていない。

「それじゃあ、料理を作ってくるね。今日は生姜焼きという豚肉の料理だよ」
「た、楽しみだ……」
 弾路に気持ちが分かってもらえずに落ち込むイリアだが、それはアピール不足だからだと気づけてない。全ての人がビンセントのように気づける人ではない。特に弾路のような鈍感には、言葉で言わなければ伝わらないのである。
 弾路もイリアも奥手なのだ。弾路はそれに輪をかけて鈍感である。そのことに最近やっと気づいたビンセントは、イリアに耳打ちした。

「何、あれにか」
「はい。相談役ということで」
「ふむ。いいだろう」
 イリアの同意を得て、ビンセントは笑みを作る。

「あぁぁ……このなんとも言えない甘辛いタレが……好き」
 生姜焼きを食べたイリアは、うっとりとした。
 イリアの表情を見た弾路は満足した。

「今日も美味かったぞ、ダンジ」
「喜んでもらえて嬉しいよ、イリア」
「それでだな。ダンジを友達(以上)と見込んで頼みがあるんだ」
 イリアは悪戯っ子のような目で弾路を見る。弾路は嫌な予感がした。
(さっき僕が言ったことへの意趣返し?)

「どうした? 私とダンジは友達(以上)だよな?」
「そ、そうだな……」
「半月後に公爵軍と冒険者ギルドが合同で、死の森の魔物を狩るんだ。私の相談役としてダンジも来てくれ」
「はい?」
「おおお、そうか。ありがとう!」
(え!? いや、返事したわけじゃないんだよ! 疑問形だったよね!)
「爺や、ダンジに説明を」
「畏まりました」

 イリアからバトンを渡されたビンセントが、死の森の魔物狩りについて説明した。
 それによれば、死の森の魔物を間引くと同時に、兵士たちのレベル上げを行うという作戦が、冒険者ギルドと共に行われる。
 イリアは総司令官として参加するが、基本的には後方で構えているだけだ。弾路はイリアのそばに居て話し相手になってくれればいいらしい。
(騙すようで申しわけありませんが、ダンジ様にはいざと言う時にお嬢様の護衛をしていただきましょう。レベル五〇以上の勇者であれば、護衛として申し分ありませんからね。それに、お嬢様との距離を近づけるよい機会になるかもしれません。ふふふ)