■■■■■■■■■■
020_冒険者見習い
■■■■■■■■■■
「今日もよろしくお願いします。シャズナさん」
シャズナとの戦闘契約は一カ月。今日はその最終日である。
「ああ、よろしくだ」
弾路は七層の移動チケットをポケットから取り出した。
冒険者の中には、元SSランクのシャズナに気に入られたから一カ月で七層に到達できたと言う者も居る。
しかしシャズナの性格を知っているギルド職員は、シャズナが弾路を甘やかしているとはまったく思っていなかった。元SSランクの教育は甘くないのだ。
戦闘力だけなら五〇層や六〇層を探索できる強さを持っている弾路だが、ダンジョンの勉強をしているためそこまで進んでない。
それでも一カ月で七層に到達できた弾路は、期待の新人としてギルド内で評判になっている。
転移ゲートを抜け、七層を進む二人。
現れたのはDランクのグリーンウルフが四体。地上にも居た魔物だが、ダンジョン内に居るグリーンウルフのほうがやや強い。
これは全ての魔物に共通することで、地上よりもダンジョンの中のほうが魔物は強いのだ。
と言っても、弾路にとっては雑魚である。
二二口径回転式拳銃(二二口径小型回転式拳銃よりもバレルが少し長め)をフォルダーから抜き去ると、パンッパンッパンッパンッと四連射した。
四体のグリーンウルフは、何もできずに倒れた。
「戦闘は見事なものだ」
「戦闘はですね。ははは」
弾路は壊滅的に解体が下手だった。そのため解体した素材は買い叩かれてしまう。
それでもめげない弾路は、解体を行う。解体時に気分が悪くなることはなくなったが、皮は厚いところと薄いところがあるし、ところどころ穴が出来ている。
何度やっても解体が上手くなることはない。
「ダンジは戦闘だけやって、解体は他の誰かに任せるのがいいぞ」
「そうですよねー」
日本で金属加工の会社に就職した弾路は、失敗ばかりで先輩たちに迷惑をかけっぱなしだった。
それでも毎日努力し続けた弾路は、三年を過ぎた辺りから成長していった。
先輩たちや社長が根気よく教えてくれたこともあるが、弾路は大器晩成型だとよく言われた。
おそらく解体も努力し続ければ、上達するだろう。幸いにも、お金には困ってないから、気が済むまで解体するつもりでいる弾路だった。
「今日で最後ですから聞きたいことがあります。いいですか?」
解体の手は止めずに、弾路はそう切り出した。
「何を聞きたいのだ?」
「なんで僕の戦闘契約者になったのですか?」
「やはり気づいてないのだな」
弾路はなんのことか、さっぱり分からなかった。
「ダンジが見張られていたからだ」
「え?」
まったく予想外のことに、弾路の手が止まった。
「今も見張られているぞ」
「ど、どこから!?」
周囲を見渡すが、弾路には誰も見えない。
「ダンジに気づかれるような奴らではない。あれはプロだ。どこかの国か貴族に使えている影の者だろう」
「えぇぇぇ……」
(まさかサマンサかなのか? それなら、ここに僕が居ることがサマンサに筒抜けになっている……)
「ダンジが見張られているのに気づいた私は、君を守ることにした。だから戦闘契約を行ったんだが……」
「だが?」
「敵意がないんだよ、そいつら」
「はい?」
「あれは、敵対対象を監視しているとは思えないんだ。もしかしたら私の思い過ごしで、ダンジを見守っているのかもしれないな」
「え? 僕を見守る?」
「ダンジを見守る国や貴族に心当たりはあるか?」
「僕を見守る国か貴族……あっ!?」
弾路の脳裏にイリアの顔が浮かんだ。
「あるようだな」
(まさかイリアが? そう言えば三日と開けずに遊びに来てるよ、あの人。そうか! そうなんだ! イリアは僕の料理を食べたいから、僕を守っているんだ! 毎回僕の料理を強請るもんね! イリアは食いしん坊だなー)
イリアが弾路を見張らせているのは間違いないことだが、その理由が勇者である弾路を取り込みたい、伴侶にしたいというものである。半分正解で半分不正解の弾路だった。
「でも、なんでシャズナさんが、監視者から僕を守ろうとしたのですか?」
「ダンジも知っているように、私も昔は冒険者をしていたんだ。ダンジョンの中で転移罠に引っかかって、酷い目に合った。生き残ったのは六人中三人だった。だからかな……ダンジョンの中で人が死ぬのは見過ごせないんだ」
(お、重い話なんですけど……。下手に聞いてはいけないことだった。反省しないといけないな)
「ははは。そう深刻な顔をするな。もう過ぎたことだ」
神妙な表情をする弾路に対して、シャズナはあっけらかんとしたものだ。
シャズナは過去のことと割り切っているのかもしれない。
「監視者に関しては大丈夫だと思うが、あとはダンジ次第だ」
「はい」
話を戻したシャズナは、弾路の問題だから自分でなんとかしろと言う。
「それから、冒険者を続けるなら解体と斥候ができる仲間を見つけろ。ダンジの攻撃力は認めるが、それだけでは冒険者を続けることはできない。魔物や罠を発見することもできず、解体も最悪だ。信頼できる仲間を見つけないと、冒険者としてやっていけないぞ」
「僕の出来ること出来ないことを考えて、仲間のことを検討します」
「それがいい」
解体に関しては【異世界通販】で死体を【売却】できる。【異世界通販】は現金化もできるから、解体は最悪どうでもいい。
だが魔物の気配に敏感な仲間、罠を発見できる能力やスキルを持つ仲間は必要だ。特に罠発見能力は切実な問題になるだろう。
弾路とシャズナは七層をある程度探索し、転移ゲートを使って地上に帰った。
今日も魔物の素材は酷い状態だから、ギルドで買い叩かれてしまった。
「今日までありがとうございました」
「ダンジョンに入る時は、しっかりと準備するんだぞ。準備してしすぎることはない。分かったな」
「はい」
弾路はシャズナに深々と頭を下げて感謝した。
020_冒険者見習い
■■■■■■■■■■
「今日もよろしくお願いします。シャズナさん」
シャズナとの戦闘契約は一カ月。今日はその最終日である。
「ああ、よろしくだ」
弾路は七層の移動チケットをポケットから取り出した。
冒険者の中には、元SSランクのシャズナに気に入られたから一カ月で七層に到達できたと言う者も居る。
しかしシャズナの性格を知っているギルド職員は、シャズナが弾路を甘やかしているとはまったく思っていなかった。元SSランクの教育は甘くないのだ。
戦闘力だけなら五〇層や六〇層を探索できる強さを持っている弾路だが、ダンジョンの勉強をしているためそこまで進んでない。
それでも一カ月で七層に到達できた弾路は、期待の新人としてギルド内で評判になっている。
転移ゲートを抜け、七層を進む二人。
現れたのはDランクのグリーンウルフが四体。地上にも居た魔物だが、ダンジョン内に居るグリーンウルフのほうがやや強い。
これは全ての魔物に共通することで、地上よりもダンジョンの中のほうが魔物は強いのだ。
と言っても、弾路にとっては雑魚である。
二二口径回転式拳銃(二二口径小型回転式拳銃よりもバレルが少し長め)をフォルダーから抜き去ると、パンッパンッパンッパンッと四連射した。
四体のグリーンウルフは、何もできずに倒れた。
「戦闘は見事なものだ」
「戦闘はですね。ははは」
弾路は壊滅的に解体が下手だった。そのため解体した素材は買い叩かれてしまう。
それでもめげない弾路は、解体を行う。解体時に気分が悪くなることはなくなったが、皮は厚いところと薄いところがあるし、ところどころ穴が出来ている。
何度やっても解体が上手くなることはない。
「ダンジは戦闘だけやって、解体は他の誰かに任せるのがいいぞ」
「そうですよねー」
日本で金属加工の会社に就職した弾路は、失敗ばかりで先輩たちに迷惑をかけっぱなしだった。
それでも毎日努力し続けた弾路は、三年を過ぎた辺りから成長していった。
先輩たちや社長が根気よく教えてくれたこともあるが、弾路は大器晩成型だとよく言われた。
おそらく解体も努力し続ければ、上達するだろう。幸いにも、お金には困ってないから、気が済むまで解体するつもりでいる弾路だった。
「今日で最後ですから聞きたいことがあります。いいですか?」
解体の手は止めずに、弾路はそう切り出した。
「何を聞きたいのだ?」
「なんで僕の戦闘契約者になったのですか?」
「やはり気づいてないのだな」
弾路はなんのことか、さっぱり分からなかった。
「ダンジが見張られていたからだ」
「え?」
まったく予想外のことに、弾路の手が止まった。
「今も見張られているぞ」
「ど、どこから!?」
周囲を見渡すが、弾路には誰も見えない。
「ダンジに気づかれるような奴らではない。あれはプロだ。どこかの国か貴族に使えている影の者だろう」
「えぇぇぇ……」
(まさかサマンサかなのか? それなら、ここに僕が居ることがサマンサに筒抜けになっている……)
「ダンジが見張られているのに気づいた私は、君を守ることにした。だから戦闘契約を行ったんだが……」
「だが?」
「敵意がないんだよ、そいつら」
「はい?」
「あれは、敵対対象を監視しているとは思えないんだ。もしかしたら私の思い過ごしで、ダンジを見守っているのかもしれないな」
「え? 僕を見守る?」
「ダンジを見守る国や貴族に心当たりはあるか?」
「僕を見守る国か貴族……あっ!?」
弾路の脳裏にイリアの顔が浮かんだ。
「あるようだな」
(まさかイリアが? そう言えば三日と開けずに遊びに来てるよ、あの人。そうか! そうなんだ! イリアは僕の料理を食べたいから、僕を守っているんだ! 毎回僕の料理を強請るもんね! イリアは食いしん坊だなー)
イリアが弾路を見張らせているのは間違いないことだが、その理由が勇者である弾路を取り込みたい、伴侶にしたいというものである。半分正解で半分不正解の弾路だった。
「でも、なんでシャズナさんが、監視者から僕を守ろうとしたのですか?」
「ダンジも知っているように、私も昔は冒険者をしていたんだ。ダンジョンの中で転移罠に引っかかって、酷い目に合った。生き残ったのは六人中三人だった。だからかな……ダンジョンの中で人が死ぬのは見過ごせないんだ」
(お、重い話なんですけど……。下手に聞いてはいけないことだった。反省しないといけないな)
「ははは。そう深刻な顔をするな。もう過ぎたことだ」
神妙な表情をする弾路に対して、シャズナはあっけらかんとしたものだ。
シャズナは過去のことと割り切っているのかもしれない。
「監視者に関しては大丈夫だと思うが、あとはダンジ次第だ」
「はい」
話を戻したシャズナは、弾路の問題だから自分でなんとかしろと言う。
「それから、冒険者を続けるなら解体と斥候ができる仲間を見つけろ。ダンジの攻撃力は認めるが、それだけでは冒険者を続けることはできない。魔物や罠を発見することもできず、解体も最悪だ。信頼できる仲間を見つけないと、冒険者としてやっていけないぞ」
「僕の出来ること出来ないことを考えて、仲間のことを検討します」
「それがいい」
解体に関しては【異世界通販】で死体を【売却】できる。【異世界通販】は現金化もできるから、解体は最悪どうでもいい。
だが魔物の気配に敏感な仲間、罠を発見できる能力やスキルを持つ仲間は必要だ。特に罠発見能力は切実な問題になるだろう。
弾路とシャズナは七層をある程度探索し、転移ゲートを使って地上に帰った。
今日も魔物の素材は酷い状態だから、ギルドで買い叩かれてしまった。
「今日までありがとうございました」
「ダンジョンに入る時は、しっかりと準備するんだぞ。準備してしすぎることはない。分かったな」
「はい」
弾路はシャズナに深々と頭を下げて感謝した。