■■■■■■■■■■
 019_解体を覚えなさい
 ■■■■■■■■■■


 転移ゲートを通ると、洞窟のような場所に出た。天井が高くかなり広い場所だ。
「この一層にはないが、ダンジョンの中には罠がある。罠は危険だ。踏み抜かないように注意しなければいけないぞ」
「どんな罠があるのですか?」
「落とし穴のような簡単なものから、毒ガスが噴き出したり、矢が飛んで来たり、槍が飛び出してきたり、溶解液の中に落とされたり、モンスターハウスだったり、深層に転移させられたり、武器を差し出さないと出られない部屋に転移もあるな。特に転移罠は危険だ。パーティーの場合は、別々の場所に転移させられる可能性が高い。つまり、生きて帰って来るのはかなり難しいというわけだ」
 シャズナさえ知らない罠もあるかもしれない。とにかく、罠に対する警戒は怠るなと、シャズナは言う。

 二人はダンジョンの中を進む。
 広い場所から細い通路に入るとすぐにまた広くなる。
「マッピングは冒険者の基本だ。迷子になったら恥ずかしいから、頭をしっかりと働かせろ」
「はい」

 T字路に出た。シャズナはどっちに行くか弾路に聞いた。
「右に行きます」
「理由は?」
「知らない場所ですから、分岐は全部右にしようと思います」
「なるほど、いい考え方だ」
 マッピングはそれなりの能力が要るから、動き方を工夫するのは当然のことだとシャズナは笑って言う。弾路は試されたようだ。

「魔物だ。武器を構えろ」
「は、はい!」
 弾路は背嚢から二二口径小型回転式拳銃を出した。大きさは日本の警察が使っているような小さめの拳銃だ。
「それが武器か? 見たことがない形だな」
「これは銃という武器です」
「何、銃だと!?」
 シャズナがガシッと弾路の肩を掴んだ。

「それは本当に銃なのか?」
「そ、そうです……。シャズナさんは銃を知っているのですか?」
「昔召喚された勇者から聞いたことがある。勇者の世界の武器だとな」
(やっぱり昔の勇者も銃を知っていたんだ。でもシャズナさんは銃を見たことないということは、その勇者は銃を造れなかったのかな)
「その勇者とシャズナさんは親しいのですか?」
(銃のことを話す程度には親しいのかもしれない)
「いや、敵だった。捕虜にした時に、銃があれば私に負けなかったのにと言っていたな」
(なんで敵なの!?)

 その勇者はヒューマンに唆されて、エルフの里を襲った。ヒューマン軍はエルフ軍に敗退して、勇者は捕虜になったのだ。
 その勇者は「エルフ、はぁはぁ」「チートなのに、なんで」などと言っていたとシャズナは言った。
(完全にオタクじゃん!)

「捕虜になった勇者は、どうなったのですか?」
「私たちに傅いて足にキスするからキモかったが、悪い奴ではなかったから更生させたよ。その後、老衰で死ぬまでエルフの里で暮らしていたな」
「それ、いつ頃の話ですか?」
「勇者が現れたのは……一五〇年くらい前か。老衰で死んだのはそれから六〇年後くらいだな」
(オタクなのに、一五〇年も前に召喚されているの? 日本だと昭和初期か大正、もしかしたら明治後期くらい? でも、そんな時代にオタクなんてあり得ない。時間軸がおかしいのか?)

「話し込んでしまったが、魔物を倒すぞ。その銃の威力を見せてもらおうか」
 魔物は三〇メートルほど先に居る。やや大きめのウサギで、額に鋭利な角が生えている。
「銃は大きな音が出ますので、驚かないようにお願いします」
「分かった」
 弾路は銃を構えて、ウサギへ近づいていく。
 一五メートルほどに近づいたところで、ウサギが弾路に気づいた。
 この距離なら二二口径小型回転式拳銃の射程距離だ。

 パンッ。マグナム弾に比べると軽い発砲音。
 ウサギの首から鮮血が飛び散り、動かなくなった。
「一番弱いFランクのホーンラビットだが、一発か。なかなかの威力のようだな」
(これ、一番威力を抑えた銃弾なんだけどね)
 二二口径の五・五六ミリ弾で、発射薬もかなり少ない。それでも【弾丸の勇者】のレベルに引っ張られて、FランクどころかDランクのグリーンウルフでも当たり所が悪かったら一発で倒せる。
 試射の際に、グリーンウルフと何度か戦ったから間違いない。

「魔物は解体しなければならない。このホーンラビットだと肉と皮、それに角が売れるぞ」
「解体したことがないのですが……」
 今まで【異世界通販】の【ストック】に入れるか直接【売却】していたため、弾路は解体を経験していない。

「解体用の短剣は持っているか?」
「ちょっと待ってください」
 背嚢から取り出すフリをして、【異世界通販】からサバイバルナイフを購入して出した。
(今、スキルを使ったわね。もしかして、収納系のスキルを持っているの?)
 シャズナは近くに居る人がスキルを使うと、何となくだが分かる。スキルではなく、長年の経験と努力によって培った能力だ。

「これでいいですか?」
「ずいぶんと立派な短剣ね。まあいいわ、まずは首を切って───」
 解体をしたことがない弾路は、何度か嘔吐しながらも解体をやり切った。
 不要な骨と内臓が地面に散らかっている。
「そういったものは三〇分もすればダンジョンに取り込まれてなくなるわ」
「そうなんですか、掃除要らずですね」
「掃除……まあ、そうね。それよりも、今の解体した肉と皮はかなり酷い状態だから、かなり安くなるわよ。高く売りたいなら解体をしっかりと覚えなさい」
「分かりました!」
 それからは魔物を倒したら解体の繰り返しだった。
 一層ではFランクのホーンラビットくらいしか出てこないから、戦闘は一方的なものだった。