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 018_ダンジョン探索準備
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 ギルドの二階にある購買部で、ダンジョン探索に必要なものをシャズナから聞く弾路。
 元SSランクの戦闘契約者であるシャズナは、通常はCランク以上の助っ人として活動している。
 戦闘契約者であっても、助っ人ともなると依頼者が死んでもペナルティはほとんどない。そういう契約もあるのだ。

「いいか、ダンジ。冒険者ならいざと言う時の、逃げる手段を用意しておくんだ」
 シャズナはショウケースに並ぶピンク色のクリスタルを指差した。
「これは、なんですか?」
「これは帰還クリスタルだ。登録された場所に、一瞬で移動できるマジックアイテムになる。高価なものだが、持っておけばいざと言う時に役立つ。まあ、お護りとして持っておく感じだ」
「なるほど。こんなマジックアイテムがあるんですね」
 帰還クリスタルの値札を見ると、なんと三〇〇万リト。今の手持ちのお金ではとても買えないアイテムだ。

「帰還クリスタルは稼ぐようになってから買えばいい。だが、ポーションは必ず買っておくようにな」
 シャズナは歩きながらそうレクチャーし、棚に置いてある青い液体の入った瓶を指差す。
「ポーションは効果によって値段が変わる。ギルドは品質をしっかり調べて値付けをしているから、値段が命の重みだと思ってできるだけ高いものを買っておけ」
「そうさせてもらいます」
 それぞれの瓶に値段が張られている。それを見ると、安いものは三〇〇〇リトからあって高いものになると一〇〇万リトというものまである。
(めっちゃ高いんですけど!?)

「他に買うものがなければ、手持ちのお金で買えるだけ買います」
 サマンサに復讐するにしても、命があってこそだ。ポーションに有り金全部をつぎ込もうと思った。
「いい心がけだが、防具と武器も買わないといけないぞ。それに、ダンジのクラス次第では、マナポーションも必要になるかもしれない」
「マナポーションは、魔力を回復させるものですね」
 ライトノベルではマナポーションはお馴染みの魔法薬だ。
「そうだ。魔法使いにとっては、正に生命線だからな」
「僕は生産系クラスですからマナポーションは不要です。それと武器はありますから、防具とポーションだけでいいです」
「武器があるなら、防具とポーションでいいぞ。今日の予算はどれくらいだ?」

 実を言うと一〇〇万リトのポーションを買おうと思えば買える。
【異世界通販】では【出金】機能がある。その機能を使うと、リトで出金できるのだ。
 レートは一円で一リト。一対一だから一〇〇〇万リトでも引き出せる。
 ただし、初心者が最初からいい装備やアイテムを持っていると、何かと問題が起きそうだから予算は五〇万リトに決めている。

「五〇万リトです」
「意外と多かったな。それなら、防具はキラーシャークの革鎧辺りがいいだろう。四〇万リトもあれば買えるはずだ」
 防具の販売エリアに移動して、キラーシャークの革鎧を購入して調整してもらう。
 調整はすぐにできて、そのまま着ていくことになった。
 ポーションは一〇万リトのものを買った。売れ筋は一万リトだから、それなりに良いものだ。

 二人はダンジョンに入っていく。ダンジョンの入り口は冒険者ギルドの前にあって、そこは広間のようになっている。
 広間では露店が立ち並び、冒険者たちが食料などを買い込んでいる。
 ダンジョンは神殿のような石造りの建物に見えた。
「なんか人工物のようですね」
「何を言っているんだ。この建物は人間が造ったに決まってるだろ」
「え?」
 シャズナ曰く、ダンジョンの入り口は空間の歪みで、その周囲に人間が建物を建てた。
「この建物のことを私たちは神殿と言っている」
(そのまんまかーい!)
「そうなんですか、勉強になります」

 神殿の中に入ると外観から想像した通りのだだっ広い大広間になっており、その中央部に赤と青が混じる渦がある。あの渦が空間の歪み───ダンジョンの入り口だ。
 冒険者たちはその渦に躊躇することなく入って行く。中には笑いながら和気あいあいとした雰囲気で入っていく冒険者も居た。

「今日は雰囲気を確認する程度だから構わないが、通常は食料や水などを持って入る。数日に渡って探索する場合は、野営道具も必要になるぞ」
「はい」
「それから、先ほど教えた帰還クリスタルの帰還場所を登録するなら、この神殿の中にするんだ」
「自分の家ではダメですか?」
「構わないぞ。ただし、ここだとギルド職員が常に見回っているから、怪我をして動けなくてもすぐに見つけてくれる。職員はポーションを持っているから応急手当ができるし、ギルドのほうに治癒士が常駐しているから、家よりこっちのほうが助かる確率は上がるぞ」
「なるほど」
「ただし、使ったポーションや治癒士の治療代は、自腹だからな」
「ですよねー」
 ポーションは一万リトのものが使われ、傷が残った場合はその大小で治癒士に支払う治療費は変化する。

「さて、実際にダンジョンの中に入るが、あれを私たちは転移ゲートと呼んでいる。ダンジョン内にある他の転移ゲートと繋がっているんだ」
 シャズナは赤と青の渦を指差した。
「このダンジョンは九五層まで探索が進んでいる。実際にどれだけの層があるか分かっていない」
「ダンジョン自体は未踏破ということですね」
「そうだ。私たち冒険者は到達した層にあるダンジョン内転移アイテムを得ることで、その層まで移動が可能になる」
「ダンジョン内転移アイテムですか?」
「ダンジョン内限定だが、その転移ゲートから直接その層へ移動できるアイテムのことだ。私たちはそのアイテムを移動チケットと呼んでいる」
 シャズナは革製のウエストポーチから移動チケットと取り出して見せた。
(本当にチケットのような、紙質のアイテムなんだ)
「便利なアイテムですね」
「便利だが、ドロップ率はそれほど高くない。パーティーメンバー全員分を集めるのは、骨が折れるぞ」
 比較的簡単に進める低層は、移動チケットを集める前に踏破してしまうとシャズナは言う。

「転移ゲートを通る時は、行きたい層の移動チケットを手に持って通るんだ。持ってない時は、強制的に一層へ移動することになる」
「分かりました」
「それから出る時は、何も持たずにその層にある転移ゲートを通ればいい。別の層の移動チケットを持ちながら転移ゲートを通ったら、その層に移動もできる」
(ダンジョンの中から別の層へ移動できるんだ。全層の転移チケットを集めるのは大変そうだけど、集めたいな~)

「ここまでで何か聞きたいことはあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「それでは移動するぞ」
 シャズナは革製のウエストポーチに移動チケットをしまい、歩き出した。
「はい!」
 シャズナの後について、弾路も転移ゲートを通る。
 一瞬の浮遊感はあったが、そこまで違和感はない。