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 014_イリアの訪問(一)
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 弾路は三日間拳銃の製作に没頭した。
 弾丸はスキルで創造できるが、拳銃はそういうわけにはいかない。予備の拳銃は必要だ。それに、生産系スキルは使うことでレベルが上がると聞いた。だったら使いまくらなければいけないだろう。
 また、冒険者になってダンジョンに入るつもりだから、色々な拳銃を作ろうと考えた。
 まだ三〇口径までの回転式の拳銃しか作れないが、工夫は色々できる。

 ・バレル(銃身)の長さバリエーションを変えた拳銃。短(一〇センチ)、中(二〇センチ)、長(三〇センチ)。
 ・小口径(二二口径)の拳銃。
 ・弾丸の長さは変えることもできることから、シリンダーを長くした拳銃。

 バレルを長くするとそれだけ扱いづらくなるが、発射時の初速が速くなるメリットがある。これは威力に関係する。
 なお、バレル長は三〇センチが限度だった。それ以上はレベル一の【銃器製作】では造れないようだ。

 小口径拳銃は威力を落とせた。対人戦で相手を殺したくない時に、使えるかもしれないと用意した。

 弾丸の長さを変えれば、それだけ多くの発射薬が入っている。それだけ威力が高くなるが、発射時の反動も大きくなる。
 よく聞くマグナム弾は、薬莢が長くなっていて発射薬が多めに入っている。マグナム弾が強力なのはこういった理由がある。

 これらのバリエーションを用意した弾路は試射に出かけようとしたが、タイミングを見計らったように家のチャイムが鳴った。
「ダンジ様。公爵閣下がおいでになりました」
「はい?」
 ミッシェルから思わぬ人物の名を聞き、慌てる弾路。
(なんで公爵様がここに? 僕、何かしたかな? まさか、試射した林が公爵様のもので、木を何本もダメにしちゃったことで捕まっちゃうの?)
「と、とにかく、お通しして」
「はい」

 今日のイリアは清潔感のある淡い青色のドレスを着ていた。それがイリアの赤毛を引き立てていて、とても似合っている。
(僕、逮捕されちゃう……謝ったら許してもらえるかな……)
 イリアは上品な色気を出すように心がけたが、歩く時はお尻を振り、髪をかき上げる色っぽい仕草に、唇を舌で舐める仕草は妖艶さを出すものだ。恋愛経験値ゼロのイリアの勘違いは甚だしいものだった。
 しかし勘違いによってテンパった弾路には、イリアの美しさやアピールがまったく目に入らない。イリアが可哀想に思えてしまう。

「ダンジ。久しいな」
「は、はい! 公爵様のおかげで良い家に住めて助かっています」
「ははは。これは私を助けてくれたことへの褒美だ。気にせず使ってくれ」
「ありがとうございます。そ、それで……今日はどういったご用件でしょうか?」
「うむ。命の恩人の弾路がどうしているか、見に来たのだ」
「え? それだけですか?」
「それだけだぞ」
「………」
 弾路に会いに来たのだが、直接的な言葉ではなく「命の恩人」を強調した。それでは弾路のような鈍感には通じないが、これ以上はイリアにできなかった。
 イリアも弾路同様に恋愛経験が豊富なわけではない。弾路が勇者だから伴侶にいいと思っただけで、好きという感情があるわけでもない。
 ただ、弾路が気になっていることは間違いではなく、それがいずれ好きという感情に変わる可能性は否定できない。

(良かったーーーっ! 捕まるんじゃないかと、冷や冷やしたよ)
「そう言えば、ダンジは鍛冶工房で何を作っているのだ? 剣か? 鎧か?」
(これ、なんて答えればいいかな? 銃と言っても分かってもらえないだろうし……)
 考えた弾路は、素直に銃を見せることにした。
 一番小さな二二口径の拳銃で、日本の警察が使っている拳銃よりもやや小さい。回転拳銃だから横幅がどうしても太くなるが、三〇口径マグナム弾でバレルが三〇センチある銃に較べれば可愛いものである。

「これはなんだ?」
 イリアは拳銃を手に取ってバレルの中を覗いたりする。
 弾丸が装弾されていたら危険な行為だが、一発も装弾されてないから好きなように触らせている。
「一応、武器です」
「ほう、こんなのが武器なのか? どのように使うのだ?」
 イリアはバレルを握って、グリップで叩く仕草をした。
(打撃武器じゃないし(笑))
「その他に弾丸というものが必要になります」
「ほう、弾丸とな」
「弾丸をご存じですか?」
「まったく知らぬな。どういったものなのだ?」
「これです」
 弾路は一発の弾丸を自分の前に置いた。火薬が入っているから、イリアに触らせるつもりはない。下手に扱って、暴発でもしたら大変なことになる。

「そんな小さなものが武器なのか?」
 弾丸に手を伸ばすイリアだったが、弾路が弾丸を手の中に握った。
「申しわけありませんが、これはとても危険なものです。公爵様に何かあってはいけませんので、触るのはご容赦ください」
「む、そうか。分かった」
 残念そうな表情をしたイリアだったが、危険と言われれば大人しく引き下がる。権力を背景に触らせろと言うことはできるが、そのつもりはさらさらない。弾路を伴侶にしたいのに、反感をもたれるのは得策ではないからだ。

「しかしそんな小さなものが、そんなに危険なのか」
「これは爆発するのです」
「爆発か、それは恐ろしいな」
 盗賊を屠ったあの爆発力は、レベルが高い騎士系でさえ大きなダメージを負うものだ。そのことを思い出したイリアは、身震いした。

「よければ、その武器とやらの威力を見せてほしい」
「町中で使うには、音が大きいのです。ですから、町の外に行って試していたのです」
「町の外へ行けばいい」
「お嬢様。本日はそのような予定はないことから、警護の人員は最低限の者しか連れて来ておりません。それにこの後に、予定が入っておりますので、今日はこの辺で」
 ビンセントがイリアを止める。それを不満に思ったイリアは頬を膨らませた。
(公爵様と言っても、可愛らしい女性だな。ふふふ)

「それをなんとかするのが、爺やの仕事だろ」
「我儘を仰られますな。ダンジ様が笑っておりますぞ」
(えぇぇぇっ!? 僕に振らないで!)
「何がおかしいのだ、ダンジ」
「いえいえいえ、何もおかしなことはありませんです」
 ビシッと立ち上がって、弾路が敬礼する。何に敬礼しているかは、弾路も分かっていない。

「ダンジよ、座るが良い」
「は、はい」
「次に来る時は、護衛を大勢引き連れてくる。その武器を使うところを見せてくれ」
(そんなことしたら、すぐに僕の噂が広がるかもしれないから、勘弁してほしい。力をつけるまではサマンサに知られたくないんだよ……)
「あ、あの……あまり大勢の人に見せるのは……」
「爺やよ、ダンジはこう言っておるぞ」
「では、お嬢様が諦めなさいませ」
「嫌じゃ。私は見たいのだ!」
 明らかに不機嫌になっていくイリアに、弾路はヤバいと思った。なんとかしなければ、イリアが怒り出すかもしれない。牢屋に入るのは嫌だ。

「あ、あの、公爵様」
「ん、なんだ、ダンジ」
「銃の代わりに料理を振る舞います。それで機嫌を直していただけないでしょうか」
「ほう、料理か……。いいだろう、それで手を打とう」
 イリアは弾路の手料理が食べられる。それは弾路との距離が近づくと考えた。

「ありがとうございます。昼食を振る舞いたいと思いますので、今度お見えになる日時を後日お聞かせください」
「爺や、明日の昼の予定は全てキャンセルだ。いいな」
「承知しました」
「ダンジ。明日の昼に来る。手料理を楽しみしているぞ!」
(明日……これはすぐに支度しないと間に合わないぞ)

 イリアは機嫌よく帰って行った。スキップしそうなくらいの上機嫌だった。
 まさか明日になるとは思っていなかった弾路は、ちょっとだけ慌てていた。
(しかし、公爵様なのにフットワーク軽すぎない!?)