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 013_情報整理(二)
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 引き続きミッシェルと湯舟に浸かり、この世界のことを確認している弾路。
「僕でもダンジョンに入れるかな?」
「冒険者登録すれば、入れます。ただしダンジョンはとても危険な場所で、魔物の他に罠があると聞きます。入る時は斥候系のクラス、それから僧侶系のクラス、戦士や剣士、騎士系のクラス、魔法使い系クラスなどの複数人たちが集まったパーティー単位で入るほうがいいでしょう」
「ソロでも入れるんだね?」
「危険ですが、入ることは可能です」
(ダンジョン探索をしながら力をつけよう。そうだ、レベルをどこまで上げればいいのか、聞いておかないとね)

「冒険者としてやっていくには、レベルがどれくらいあればいいかな?」
「Fランクの魔物はレベル五のパーティーなら討伐可能です───」
 ミッシェルの説明によれば、魔物の討伐に必要なレベルはこのようになる。
 Fランクはレベル五、Eランクはレベル一〇、Dランクはレベル一五、Cランクはレベル二〇、Bランクはレベル三〇、Aランクはレベル四〇、Sランクはレベル五〇。基本はパーティーの平均レベルである。

「SSランク以上はあまりにも強いことから、必要レベルはよく分かっていません。また、レベルはあくまでも目安であり、クラスやスキルの相性によってはレベルが低くても倒すことは可能です。もちろん、その逆もあります」
(えーっ……僕、レベル五〇だから、Sランクを倒せるレベル? あー、でもレベル一の時にBランクのツインヘッドレオパルドを倒しているから、レベル制度が崩壊しているよね?)

「スキルのことを教えて」
「スキルはクラス由来のスキルと、その人が生まれつき持つスキルがあります」
(どう考えても、【異世界通販】は生まれつきのほうだよね。これが【弾丸の勇者】由来のスキルだったらビックリ仰天だよ。でも、最初はなかったんだけど、どういうことかな?)
「生まれつきじゃなくクラス由来でもないスキルが、急に出ることってあるのかな」
「極稀にそのようなスキルがあるようですが、本当に少ないらしいです」
(そのレアケースに当たったのか。運があるのかな。いや、運があるなら、サマンサに殺されかけることもなかった。でも、殺されかけたけど死ななかった。これは運があるのかな?)
 堂々巡りの思考を一旦止め、ミッシェルの話に耳を傾ける。

「レベルがあるスキルは、レベルが上がるほど強力なものになります。逆にレベルがないスキルは、最初からかなり強力です」
「スキルレベルの上限はあるかな?」
「スキルレベルの上限は五になります。レベル一が見習い、レベル二が一人前、レベル三が熟練、レベル四が名人、レベル五が人外という感じです。ただし、全部のスキルが当てはまるとは限りません」
(僕の【銃器製作】はレベルが一だから、見習いなんだ。レベルをもっと上げれば、もっと洗練された銃を作ることができるのかな?)

「スキルレベルはクラスレベルを上げれば、上がるのかな?」
「スキルを使うことで上がる場合と、クラスレベルが一定のレベルに達する必要がある場合があります」
「へー、使うだけでスキルレベルが上る場合もあるんだ」
「たとえばですが、剣術系のスキルはクラスのレベルが上がることで上がります。しかし、料理系のスキルは使うことでレベルが上がります。戦闘系と生産系に大きく分けるといいかもしれません。これも例外はありますので、全てではありませんが」
「うん。理解したよ。ミッシェルはなんでも知っているんだね」
「わたくしなど、大したものではありません」
(謙遜しちゃって~。美人なだけでなく、このような奥ゆかしいところがあるのがいいよね)
 奥ゆかしい人は弾路の前で裸にはならないだろう。しかしこれがミッシェルの仕事なのだから、裸のことは除外するべきなのかもしれない。

「あとは……ガーランドではどういった通貨が使われるのかな? 物価は?」
「帝国紙幣が使われています。単位はリトです」
「紙幣? 全部紙幣なの?」
(あの女大臣にもらったのは、全部硬貨なんですけど……)
「はい。政治、治安、軍事、情勢などが安定している帝国だからできることですが、他国はほとんどが銅貨、銀貨、金貨のような硬貨を使ってます」
(異世界だと硬貨ばかりだと思っていただけに、全部紙幣と言うのも凄いな……帝国は他の国よりもかなり安定した政治体制みたいだね)
 日本では一円硬貨を作るのに三円かかっていると言われている。帝国紙幣を刷るのにどれほどの費用が掛かっているのかと、どうでもいいことを考える弾路であった。

「紙幣の種類は、一リト、五リト、一〇リト、五〇リト、一〇〇リト、五〇〇リト、一〇〇〇リト、五〇〇〇リト、一万リトがあります。物価は一〇キログラムの米が六〇〇〇リト、パン一斤ですと四〇〇リトくらいです」
(価値としては一リトが一円くらいかな。紙幣ばかりのところを除けば、日本と同じ感じだから分かりやすい)
 米は公爵屋敷で食事を出してもらったときに、パエリアのような料理が出て来たことから存在しているのは知っていた。あの時はかなり感動した弾路だった。
(って、今更だけど重量の単位がキログラムなの? 異世界にあっちの知識が入っている? ちょっと確認してみるか……)

「ミッシェルが考える最強のクラスって、どんなの?」
「勇者系クラスでしょう。ただ、勇者系クラスは、勇者召喚で召喚された異世界人にしか現れないと言われております。ですから、数十年に数人しか現れません」
(つまり……数十年単位で勇者召喚が行われているんだね。だからあっちの度量衡が伝わっているのか。これはいいことを聞いた。クラスを聞かれても勇者だと言ったらダメなやつだね。勇者イコール召喚された勇者か、僕のように巻き込まれた人だもんね。あれ? 地球から勇者が召喚されているなら、銃の存在くらい知っていそうなんだけど? うーん、銃がこっちの世界に伝わってないのは、銃を作るだけの知識も技術もないからなのかな……?)

「ありがとう。大体分かったよ」
 銃が伝わっていないことはいずれ確認することにした。そろそろ上がらないと、湯あたりしそうだ。
「いえ、お役に立てて良かったです」
「これからも分からないことがあったら聞くけど、いいかな」
「構いませんよ」
 ミッシェルは微笑みながら良いと言った。少し汗ばんだミッシェルの色香のある顔を見て弾路はドキリとした。
 のぼせそうな頭でこれ以上ミッシェルの裸体が近くにあると、我慢できなくなる。自制できる間に、風呂から上がろうとする。

「ダンジ様。わたくしからも一つだけ質問させていただいてもよろしいですか?」
「ん、何? 構わないよ」
「わたくしには、色気がありませんか?」
「え?」
「ダンジ様はわたくしに手をつけようとしませんから」
 ミッシェルは目を伏せて悲しそうな仕草をする。それに慌てた弾路は、大きなジェスチャーで否定した。
「そんなことないよ! ミッシェルさんはとても魅力的で美しいよ!」
 ミッシェルの思うつぼである。こうやって慌てさせ冷静さを捨てさせると、本音が出やすい。

「では、なぜわたくしを抱いてくださらないのですか」
「その……僕は妻にする人以外を抱く気はないから」
「では、妻を娶ることは」
「良い人がいたらね。でもミッシェルさんには僕のような中年じゃなくて、もっと若くて格好いい人が現れるよ」
「ダンジ様は若くて格好いいですよ」
「僕、頼りなく見えると思うけど、三〇だから」
「え!?」
 弾路の傷痕を見ても、少し目を見開いただけのミッシェルが初めて驚いた。
 日本人なら弾路が三〇歳と聞いても驚かないが、日本人をあまり見たことのないはこちらの世界の人では若く見られる。

「冗談では……ないですよね」
「僕は冴えない三〇男だよ。ミッシェルさんのような若いお嬢さんは、僕には眩しすぎるんだ」
(公爵閣下と同じくらいか少し上だと思ってましたが、まさか三〇だったとは……。これはビンセント様にすぐに報告しないといけませんね!)

 弾路とミッシェルの裸の付き合いは、始まったばかりである。