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 011_【銃器製作】
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 トンッカンットンッカンットンッカンットントカンットントンカンカンッ。
 軽やかに響く金属音。
 鍛冶工房を譲り受けてしまった弾路は、その鍛冶工房で銃を作っている。
 スキル【銃器製作】があることで、造ったこともない銃が形になっていく。ただし、レベルが低い間は回転式拳銃しか製作できない。しかも七・六二ミリ、一般的に三〇口径と言われる口径以下の拳銃が作れるのみに留まる。
 威力は簡易ダイナマイトのほうが高いが、簡易ダイナマイトは使いづらい。だから、銃があったほうが何かにつけて便利だ。

「ふー、できたぞ!」
 三〇口径回転式拳銃。白銀色の拳銃だ。
「しかし、やっぱりミスリルがあるんだね。異世界だわー」
 ミスリルと鉄の合金で作った拳銃は、六発の弾丸を装弾することができる。
「火縄銃でなくて良かったと、本当に思うよ」
 火縄銃だと弾込めが面倒だ。それに対してダブルアクション(撃鉄を引き起こさずに、引金だけを引き絞って発砲する方式)の拳銃は、操作が簡単で助かる。

「試し撃ちしたいけど、ここじゃあ迷惑になるよね」
 鍛冶工房が併設されている弾路の家は、軽く五〇〇〇平方メートルほどある。
 しかし、町中にある家ということもあり、銃の発砲音は近所迷惑になるだろう。
消音装置(サプレッサー)が造れたら良かったんだけど、造れないんだよな……」
 しょうがないから町から出て、試し撃ちをしようと考える。

「ミッシェル。ちょっと出かけてくるね」
「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「夕方には帰ってくるから」
 弾路を見送ったミッシェルは、懐から手鏡を取り出すと光を反射させた。
 近くに潜んでいる仲間に、弾路が外出することを連絡したのだ。
 弾路にはミッシェルだけでなく、他に数人の諜報部員がついている。護衛の役目の他に、弾路を逃がさないための監視員たちである。
 弾路は勇者ということもあるが、イリアの伴侶候補というのが大きい。ビンセントは絶対にイリアと弾路をくっつけて見せると息巻いているのだ。

 門を抜けて郊外に出た弾路は、人気のない林の中に入って行く。ガーランドへ辿りつく前に、この林の前の道を通ったのを覚えている。
 周囲に誰も居ないことを確認した弾路は、銃を取り出した。実際にはビンセントの配下が弾路を監視しているが、巧妙に気配を隠していて弾路には分からない。

 シリンダーを横にスライドさせてカチャリ、カチャリと六発の弾丸を装弾する。
「なんだろう……銃を扱うのは初めてなんだけど、妙に手に馴染む」
 これが【弾丸の勇者】の効果だ。ただ弾丸を創造するだけのクラスではない。

 直径五〇センチほどの木を標的にし、狙いを定める。
(こんなことをしていると、サロゲート(Surrogate)ガン(Gun)ダイバー(Diver)のことを思い出すなぁ)
 サバゲーのSGDのことを思い出しながら、恰好をつけて照星と照門を合わせる。
 呼吸を整えて引金に指をかける。引金を引き、撃鉄が弾丸の雷管を打つ。

 バンッ。ガッ。
 弾丸が射出された衝撃が腕を伝って全身に伝播する。
 背骨に響く衝撃。
「き、気持ちいいーっ!」
 硝煙の匂いを心地良く感じるのは、これがゲームじゃないことを表しているだろう。

 標的にした木が三分の一ほど抉れている。
「ちょっと左にズレてしまった? てか、威力高くない?」
 木の左側五センチのところに当たっている。
 木の真ん中に当たっていたら、木が倒壊するレベルの威力である。
 レベル五〇の【弾丸の勇者】が弾丸の攻撃力を上げているのだ。

「そうか、威力は調整できるんだ」
 弾丸を創造する時に、威力の高低を決めることができる。それが【弾丸創造】である。
「よし、もっと撃つぞ!」
 狙った場所に命中させるには、訓練あるのみだ。
 銃の使い方は【弾丸の勇者】が教えてくれる。威力も【弾丸の勇者】のレベルによって上がる。だが、狙った場所に正確に命中させるには、一定の訓練が必要になる。

 六発撃ち尽くしたら、薬莢を排出して新しい弾丸を込める。
 何度弾丸を込めただろうか。【弾丸創造】のおかげで弾丸は切れることなく使い続けられる。
 バレル(銃身)が焼けるように熱くなっていくが、ミスリル合金で作られているため破損や歪みは見られない。
「装弾が一発一発だから面倒だけど、スピードローダーは造れなかったからな……」
 六発を一度で装弾できるスピードローダーも、サプレッサー同様に作ることはできなかった。

「ふー、撃ったー。撃ちまくったー」
 威力を弱めた弾丸でも、撃ちまくれば木が倒れてしまう。
 木が倒れる光景を見た弾路は、このままでは木が全部なくなってしまうと冷や汗をかいた。
 そこで標的を石や岩に変えた。幸いなことに、近くに小川があって石や岩がゴロゴロとあった。

 一〇〇発以上は撃っただろうか。狙った場所に命中させることができるようになってきた。
「今日はここまでにするか。会社もなければ、縛りもない。いつでも訓練できるから、もう少し様になるだろう」
 意気揚々と町に戻ろうとした時、それは現れた。

「ガアァァァッ」
 緑の毛をしたオオカミの魔物だ。それほど大きくないが、六体も居る。
 弾路は簡易ダイナマイトを出そうとしたが、こんな時こそ銃で対処しようと銃を手に取った。
「行くぞ!」
 バンッ。バンッ。バンッ。
 先手必勝とばかりに、三発を連続で撃った。魔物との戦いは、死の森で何度も行った。
 死の森の魔物に比べれば、殺気が弱いオオカミの魔物に気後れすることはない。

 二体に命中し、その胴体に風穴を開けた。しかし、他のオオカミの魔物には逃げられた。
 さらに三発。なかなか当たらない。動いた相手に対する命中精度は、まだそこまで高くない。
 しかも弾路も動きながらの射撃である。命中精度は極端に下がってしまう。

 弾丸を打ち尽くした。シリンダーをスライドさせて薬莢を排出し弾丸を一発一発装弾するが、オオカミが飛びかかってくるのを避けながらだからままならない。
 しかし、オオカミの動きは弾路には緩慢に見えた。
「あれ……? もしかして、こんなに慌てなくても良かったのか?」
 落ちつけば、攻撃を避けながら装弾できた。レベルが高いことだと気づくのは、まだ後のことだ。

「落ち着いて見れば、なんとでもなる」
 バンッ。
「キャウンッ」
「僕ってやれば出来る子だったんだ」
 バンッ。
「ギャウンッ」
 弾路は一気にジャンプして、連射した。
「「キャウンッ」」
 二体同時に射殺できた。
 これで六体のオオカミを屠った弾路は、足を止めた。

「このオオカミはとても弱かったようだね」
 弾路は六体のオオカミの死体を【ストック】に収納した。
 それを【売却】で価格を確認すると三万円。かなり安い。
(もしかして、魔物の強さが売却額に関係しているのかな?)