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 010_懐柔策
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 久しぶりのベッドの上で、ダンジはステータス画面を確認する。

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 懐瑠弾路(三〇)
 クラス 【弾丸の勇者(五〇)】
 スキル 【弾丸創造(二)】【異世界通販(二)】【銃器製作(一)】
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「あれ? レベルが上がっている? なんで……まさか盗賊を倒したから?」
 魔物でも人間でも倒せば経験値が入って来る。ただし、あの盗賊たちから得た経験値はほんのわずかだ。
 元々レベルアップ間際の状態だったから、わずかな経験値を得たことでレベルアップしたのである。

「しかも【銃器製作】! これで銃が作れる」
【銃器製作】は【弾丸創造】のように物質自体を創造できるスキルではない。材料があり生産設備があれば銃器を製作できるというものだ。

「ああっ! 【弾丸創造】と【異世界通販】のレベルが上がっているよ。やっとレベルが上がった!」
【弾丸の勇者】のレベルが五〇になるまで、【弾丸創造】【異世界通販】のスキルレベルは上がらなかった。
 あまりにも反応が悪いから、もう上がらないものと弾路は諦めていた。
 この【弾丸創造】【異世界通販】は非常にレアなスキルのため、最初のレベルアップまでに時間がかかるのだ。大器晩成型のスキルである。
 ダンジが簡易ダイナマイトを作って、死の森の魔物を爆死させてなかったら数十年かかっていたかもしれない。

 死の森に出て来る魔物はそこら辺に居る魔物とは強さが数段階違う。そんな魔物を倒せば、レベルは否応なしに上がっていく。
 クラスのレベルが上がれば、それだけ身体能力も上がる。それだけではなく、回復力も上がる。
 ダンジの怪我の治りが早いのは、レベルが上がったことの副産物だ。

「【弾丸創造】」
 現れたのはなんの変哲もない銃弾だ。ただし、この銃弾には属性が付与されている。弾丸が命中すると、その属性の追加効果があるのだ。

「これの確認はまだ先だな」
 銃がない以上、今は確認できない。
「でも、銃を作る道筋ができた」
 レベル一の【銃器製作】によって作れるのは、回転式拳銃だけだ。その製作方法は頭の中にある。
 口径も七・六二ミリ、一般的に三〇口径と言われるものしか作れない。

 公爵屋敷の広い部屋の中、ベッドに横になって弾路は明日になったら鍛冶工房を使わせてもらえる鍛冶師を紹介してもらおうと考えた。
 褒美を聞かれていたから、それを褒美にすればいい。

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「なるほど、鍛冶工房が使いたいのだな」
「はい」
 イリアは鷹揚に頷き、口の端を上げる。
「爺や。ダンジに鍛冶工房を用意してやってくれ」
「承知いたしました」
「鍛冶工房が用意できるまで、当家でゆっくりしてくれ。ダンジの世話はミッシェルがする」
「あ、いえ、僕は宿屋に」
「構わん。我が命を救った者を、歓待するのは当然のことだからな。ははは」
 イリアは胸元を強調して弾路に見せつけた。本気で弾路を伴侶にしようとしているようだ。
(ほれほれ、私の胸はどうだ。触りたいであろう。ニッシシシ)
 弾路は胸元を凝視することなくスルーした。いや、気づいてないのだ。
(お嬢様。それは逆効果になりますから、お止めください)
 ビンセントは呆れて首を振った。

 翌日には鍛冶工房が用意できたと、ビンセントがイリアに告げた。イリアはすぐに弾路を呼び出してそれを告げた。
「もう鍛冶工房を使わせていただけるのですね。ありがとうございます」
 この時のイリアのドレスは胸元が大きく開いて、背中も腰まで開いていた。
 そんな煽情的なドレスを着たイリアの必死のアピールに、弾路は気づかない。
(お嬢様……おいたわしや)

「ゴホンッ。私が案内してやりたいが、今日は忙しいのだ。すまぬな」
「いえいえ、公爵様にそんなことをしてもらうなんて、恐れ多いですから」
 話の最中でも胸を持ち上げたり色気のあるポーズをとる。そういったアピールや熱い視線も、弾路には通じなかった。
(そこまでダンジ様を……いいでしょう、このビンセントが必ずやお嬢様とダンジ様を夫婦(めおと)にしてみせます。最後のご奉公にございます!)
 違う意味で熱くなるビンセントであった。

「イーサン。お前がダンジを案内してやるのだ」
「分かりました」
 ダンジは「よろしくお願いします」とイーサンに頭を下げる。

 すぐに公爵屋敷を出て鍛冶工房に向かった弾路とイーサン、そしてミッシェル。
 弾路はなぜミッシェルがいるのか不思議だったが、すぐにその理由が分かった。

「この鍛冶工房はダンジの名義になっている。好きなように使って構わないぞ」
 ダンジを取り込むための第一歩。それはイリアの悩殺ポーズではなく、弾路に家と鍛冶工房を与えることだった。
 イリアの色仕掛けより、こちらのほうが弾路をこの土地に縛りつけることができるのが悲しいところだ。
「えぇぇぇっ!?」
 イーサンのその一言に弾路は驚くが、さらにイーサンは続ける。

「そこに居るミッシェルがダンジの身の回りの世話をする。給金は公爵閣下が出されるので気にするな」
「ミッシェルと申します。不束者にございますが、末永くよろしくお願い申しあげます」
 まるで嫁入りしたような挨拶だが、ミッシェルはわざと言っている。
「えぇぇぇっ!?」
 ミッシェルの役目はダンジの身の回りの世話だけではない。ダンジに悪い虫がつかないように見張り、必要であれば実力行使で悪い虫を追い払う。何かあればすぐにイリアに報告する。そういったことが本来の仕事なのだ。

「僕はあまり鍛冶について知らないが、必要な工具は揃っているし、燃料もある。あとは、ある程度の素材もあるそうだ。それじゃあ、僕はこれで。たまに様子を見に来るよ」
 イーサンは爽やかな笑みを残して去っていった。
 残ったミッシェルと弾路が見つめ合う。

「本日の夕食のご希望はございますか。ダンジ様の好みをお聞かせください」
 ミッシェルに帰る気はない。当然だ、ミッシェルはダンジの監視役なのだから。
「えーっと……いいのですか?」
「何がでしょうか?」
「ミッシェルさんは公爵様のメイドだったのに、僕のところに来てしまって」
「問題ありません。雇い主は今でも公爵閣下ですから」
「ああ、なるほど……」
 妙に納得してしまう弾路であった。

「ダンジ様。わたくしのことは、ミッシェルと呼び捨てにしてくださいませ」
「それはちょっと……」
「メイドにさんをつけて呼ぶご主人様は居りません。どうか、ミッシェルとお呼びください。それと敬語も不要でお願いします」
 うるうる。
「……分かったよ、ミッシェル」
「はい。ありがとうございます。ダンジ様」
 ニコ。
 ちょっと目を潤ませるだけで済むのだから簡単だ。
 あとはイリアと弾路をくっつけるためにどうすればいいのか、弾路がどのような女性が好みなのかを探ることが重要ミッションである。