「うん。僕も今年のエストランテを知っておかないとだし、せっかくだから、僕が他の同伴者を連れて行くよ。そうすれば、席の調整を頼む手間も省けるだろうしね」

 他の、同伴者。

(私ではない別のご令嬢と、ルキウスが)

 聖女祭はもう間近だけれど、ルキウスに誘われたなら、きっとどんなご令嬢も快諾してくれるだろう。
 ううん、むしろ。ルキウスから声をかけるまでもないのかも。
 彼がフリーだと知ったなら、この好機を逃すまいとご令嬢方が押しかけてくるだろうから。

(ルキウスはどんな子が好みなのかしら。可愛らしい系? それとも、しっとりと落ち着いた大人な方?)

 脳裏にルキウスと腕を組む、数々のご令嬢が浮かんでは消えていく。
 胸がチクチクするのは、気のせいに違いない。

(私と婚約を破棄したなら、ルキウスだって、別の方と婚約をしなければならないのだもの)

 遅かれ早かれ、訪れていた未来。
 私はぐっと片手を握りしめ、なんとか笑顔を作る。

「そうしていただけますと、助かりますわ。ロザリーにこれ以上迷惑をかけずにすみますから」

「わかった。今年こそ、エストランテになってくれるといいね」

「ええ、本当に」

 私は数秒の沈黙の後、「あ、あの」とルキウスを見上げる。

「お詫びに、お好きなだけクッキーを作りますわ。いいえ、他のものでも。ルキウス様がお好きなものを、お渡しさせてくださいませ。聖女祭までまだ日もありますし、何日でも、何度でもっ」

「ありがとう、マリエッタ。気持ちはとても嬉しいのだけれど、ちょっと、難しいかな」

「え……?」

 苦笑を浮かべたルキウスは、視線を窓の外に投げる。

「近頃どうにも少し、淀みの発生が多くてね。聖女祭が近いこともあって、浄化石が戻り次第、また遠征に向かわなければいけないんだ」

「そんな……。お戻りは、いつに」

「たぶん、聖女祭の前日かな。一時的に戻ることはあったとしても、きっと、会いにける時間はないだろうから」

 ルキウスは軽く肩を竦めると、

「今日が最後のチャンスだったんだ。だからどうしても会いに行きたかったのに、拘束されちゃって。とはいえ、たしかに大人気なかったよね。……会いに来てくれて、ありがとう」

 聖女祭、楽しんでね。
 そう告げるルキウスは、やっぱり穏やかで。彼の本心がうまく見えない。