「言ったろう! 彼女はずっと己が魔力を使って、慣れない怪我人の治療にあたっていたのだぞ!? 彼女の身体が心配ではないのか! お前は……お前は、彼女の婚約者なのだろう!?」

「ええ、殿下。ですから婚約者として、彼女を下して頂けるよう頼んでいるのです」

 くっ、と。苛立ち交じりに歯噛みするアベル様。

(だ、大丈夫なのよね? この言い合いが原因で、ルキウスが罰せられたりなんてならないわよね?)

 一抹の不安を抱えながら、私も行動せねばと、

「ア、アベル様。ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが私は本当に平気ですので――」

 下ろしてください、と続けるはずの言葉を飲み込んでしまったのは、私を抱きかかえる腕により力がこもったから。
 アベル様がルキウスを睨みつけたまま、忌々しげに眉根を寄せる。

「ルキウス。お前はマリエッタ嬢を、正しく愛しているのか。お前のその欲望は、彼女を茨で縛り付けるも同然なのではないか」

 周囲が思わず息を呑むような低い声。
 けれども問われたルキウスは、口端に笑みすら浮かべ、

「正しい愛、ですか」

「そうだ。恋しい相手ならば愛を持って慈しみ、深い情を糧に守るべきが道理ではないのか」

「……なるほど。それが殿下の、"正しい愛"ですか」

 と、ルキウスは「マリエッタ」と私に視線を移し、

「は、はい」

「あと、何人の治療が出来そうだい?」

「ルキウス……ッ、貴様はこの期に及んでまだそんなことを……!」

「アベル殿下、今は少々お時間をくださいますよう」

 ぴしゃりと言い放つルキウスに、アベル様が耐えるようにして口を閉ざす。
 それでも私を下すという選択肢はないらしい。
 私はおそるおそるながら、

「怪我の程度にもよりますが、皆さまに整列頂いた順に診るのでしたら、おそらくは十五程度かと」

 本当は、協力いただいているご令嬢方すべての治療をしてあげたかった。
 けれども私の魔力はそこまで維持できない。
 悔しいけれど、残りは看治隊の方に委ねるしかないだろう。

(もっと、魔力の保持力を上げる訓練をしておくのだったわ)

「……不甲斐ないですわ」

 知らずと零れてしまった呟きに、アベル様が驚いたようにして、

「マリエッタ嬢は多大なる貢献をしている。不甲斐ないなど――」