「隊員の一部が国外に出ている陛下に同行していて、普段よりも戦力が削られているんです。看治隊も同じく。紫焔獣によって受けた傷は治癒魔法による治療に合わせ、浄化が必要となりますが……。ただでさえ聖女様の不在が続いている中、近頃増加していた連日の浄化任務。そこに、この量となると……」

「浄化魔力が足りなくなるというのか」

「……否定はできません」

(そんな……!)

 浄化を受けられなければ、対象者の魔力はじわじわと淀んでいってしまう。
 手遅れとなれば、"人柱"となってしまう可能性だって――。

「急ぎ陛下に知らせを出して、帰国してもらうしかありません。それまでは浄化に専念し、傷の治療は重傷者のみを。アベル様には、街から治癒魔法を使える医師の収集をお願いしたく」

「わかった。早急に手配しよう。だが紫焔獣の発生源を突き止め対処しなければ、消耗戦となるぞ」

「心得ております」

「……わっ、私も!」

 咄嗟に声を上げた私に、二人の目が向く。
 緊張にひるみそうな自身を胸中で叱咤して、

「医者ではありませんが、私も治療に加わりますわ! アベル様、どうかご許可を」

「なに? だが、キミは……」

「私も治癒魔法の保持者です。人を集めるといっても、駆けつけるまでに時間がかかりましょう。時は一刻を争います。使えるものは、使ってくださいませ」

「だが、キミにあのような惨事を見せたくは……っ」

 と、隊員も「そうです」とアベル様に同調して、

「ご令嬢には少々酷な光景となりましょう。それに第一、治癒魔法を保持しているとはいっても、実際に使えるかどうかは――」

「……失礼いたします」

 隊員へと踏み出した私は、腕を伸ばし、彼の額の傷に手をかざす。
 瞳を閉じ、魔力を掌に集め、注いだ。
 光が舞う。ほどなくして、手を退けた。

「……これで、"証明"となりましたでしょうか」

「! 傷が……!」

 自身の額に触れた隊員が、傷の治癒を察して声を上げる。

(まさか、こんな風に役に立つ日がくるなんて)

 幼い頃から騎士を目指し訓練を積み重ねていたルキウスは、怪我を負いがちだった。
 けれども事あるごとに「これくらい、大したことないよ」といって、治癒魔法の治療をうけずにいて。