その言葉は、先日無礼を働いた私の背景を汲んでくれたものなのか、アベル様へ想いを寄せている私の邪魔はしまいと考えているからなのか。

 ともかく早いところ、「好き」だと。
 想いを伝えなければと思うのに、ミズキ様に背を押してもらった日から今日まで、一度も会えていない。

(やっぱり、こうした大事な話は直接つたえたいもの)

 私は願うようにして、ミズキ様に頂いたブレスレットにそっと触れた。

「早く、お会いしたいものね」

「誰に早く会いたいんだい? マリエッタ」

「!?」

 耳後ろで落とされた声に跳ね返る。と、

「ルキウス様……っ!?」

(ちょっ、ちょっと待って! 早く会いたいとは思っていたけれど、こうもいきなりでは心の準備が……!)

「い、いつこちらにお戻りに……っ」

「昨日の夜に、ね。そしたら休みもなく今度はこっちって、ホント、人使いが荒いよね」

「ル、ルキウス様もアベル様のお茶会に招待されましたの……?」

「ううん。僕がここに来たのは、マリエッタに会うためだよ……って、言えたらよかったのだけれど。僕の気持ちに違いはないのだけれど、護衛任務もしないとでね。けれどこうしてやっとマリエッタに会えたことだし、今日ばかりは騎士団長に感謝かな」

 にこりと笑むルキウスは、よく知る"いつも通り"。なのだけれど。

(うっすらだけれど、目の下に隈が……)

 初めて見るそれに私はそっと指先を伸ばし、彼の頬に触れた。

「マリエッタ……?」

「お疲れですのに、ありがとうございます。私も、ルキウス様とお会いできて、とても嬉しいですわ」

 ルキウスが目を丸める。
 それから穏やかに目を閉じると、頬を擦り寄せるようにして私の手を取った。

「うん。こうしてマリエッタが甘えさせてくれるなら、たまには長期任務も悪くないかな」

「え……? せっかく戻ってらしたのに、また長いこと王都を離れますの?」

「どうだろう。こればっかりは、僕は振り回される側だから。……僕もマリエッタとは離れたくはないのだけれどね」

 ルキウスはすっと開いた瞳で私を眺めながら、手に取った私の指先を自身の口元に引き寄せた。