入学式の数日後。新入生がまだこの学校に慣れきっていないこの頃に、私は図書館を訪れた。先日借りた本を返しに来たのだ。
今回借りていた本は中国の伝奇小説で、悲しい話だったけれども、何故だかしあわせなもののように感じられた。
最期、人となる事を選んだあの兄弟はどうなったのだろう。ぼんやりとそんな事を考えながら、次に借りる本を探す。
どんな本を借りようと本棚の間を彷徨く。上の方の棚を見ながら歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。
「あっ、すいません」
「……すいません……」
慌てて相手の方を見ると、随分と背の低い男子生徒が立っていた。履いている上履きの色を見る限り、新入生のようだ。
彼から一歩離れて、ふと、彼が持っている本が目に入る。どうやら、各国の刺繍の歴史がまとめられている物のようだ。それを見て、ああ、彼が返してきた後にあの本を借りてみたいなと、そう思う。
気がつけば彼は図書館の受付カウンターへと行ってしまっていて、落ち着いた足取りで図書館から出て行った。
何故だろう、季節はずれの金木犀の香りがする。不思議に思いながら、高い位置にある棚から本を一冊引っ張り出す。すると、かなりきつく詰められていたのか、何冊か一緒に落ちてきてしまった。
頭にもぶつかるし、床に散らばるしでおろおろしていると、一冊の本がページを上にして開いているのが見えた。
そのページの挿絵には、色鮮やかな金木犀の絵が描かれていた。
今回借りていた本は中国の伝奇小説で、悲しい話だったけれども、何故だかしあわせなもののように感じられた。
最期、人となる事を選んだあの兄弟はどうなったのだろう。ぼんやりとそんな事を考えながら、次に借りる本を探す。
どんな本を借りようと本棚の間を彷徨く。上の方の棚を見ながら歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。
「あっ、すいません」
「……すいません……」
慌てて相手の方を見ると、随分と背の低い男子生徒が立っていた。履いている上履きの色を見る限り、新入生のようだ。
彼から一歩離れて、ふと、彼が持っている本が目に入る。どうやら、各国の刺繍の歴史がまとめられている物のようだ。それを見て、ああ、彼が返してきた後にあの本を借りてみたいなと、そう思う。
気がつけば彼は図書館の受付カウンターへと行ってしまっていて、落ち着いた足取りで図書館から出て行った。
何故だろう、季節はずれの金木犀の香りがする。不思議に思いながら、高い位置にある棚から本を一冊引っ張り出す。すると、かなりきつく詰められていたのか、何冊か一緒に落ちてきてしまった。
頭にもぶつかるし、床に散らばるしでおろおろしていると、一冊の本がページを上にして開いているのが見えた。
そのページの挿絵には、色鮮やかな金木犀の絵が描かれていた。