「えーっと、牛乳、食パン、玉ねぎ……」
中央公園をぐるっと囲むように作られている緑道を歩きながら、ママに頼まれたおつかいリストを唱えて、ひとつずつ左手の指を折り曲げる。
「それから、合い挽きミンチ」
親指から順番に四本目の指を折り曲げようとしたとき、薬指の付け根の周りにある茶色の痣が目に付いた。
おそらく生まれつきだったと思うのだが、わたしの左手の薬指の付け根にはまるで指輪を嵌めているみたいな変わった痣がある。
普段の生活で気にすることはほとんどないけれど、たまにこうやってまじまじと手のひらを見たときに、変な痣だなぁと思う。
中学生の頃に友達のリコちゃんに話したら、「左手の薬指って結婚指輪みたいだね」と笑っていて。左薬指の痣に、一度もそんなロマンチックな発想を抱いたことがなかったわたしは、リコちゃんの話を聞いて「なるほど」と思った。
小学五年生のときにクラスの女の子たちの中で一番初めに彼氏ができたリコちゃんは恋愛上級者で、わたしの地元の友達の中でも群を抜いておとなっぽかった。
リコちゃんに「結婚指輪みたいだ」と言われると、今までなんとも思っていなかった薬指の変な痣が誰かとの約束の徴のようにも思えてしまったから不思議だ。
生まれつきの痣に、そんなロマンチックなエピソードがあるわけもないのに。