文化祭の準備は着々と進められた。
僕たちの看板製作も順調に進んでいた。
時には調理実習室で、実際たこ焼きを焼く練習もした。
その合間に体育祭の準備に走り、委員会の仕事をこなしてと、分刻みで忙しく僕たちは動いていた。
過去二年間の祭りは、その目まぐるしい日程に、本番を迎える前にげっそりとなっていた。
だけど今年は違う。
忙しくても、始終幸せだった。
僕のそばには、坂井さんがいるから。
準備が進み、文化祭当日に向かうにつれて、学校内もだんだんとにぎやかになっていった。
校門には派手なアーチが取り付けられ、校舎には文化祭用の垂れ幕が各教室のベランダからお目見えしていた。
文化祭前日には、僕たちの屋台もグラウンドに設営され、僕たちが作った看板も飾られた。
なんだか感慨深かった。
こんなに充実した祭りの準備は初めてだった。
文化祭や体育祭なんて、目立つ人だけが楽しむものだと思っていた。
僕みたいな地味な男子は、その人たちの引き立て役で、言われた雑用をこなしていればそれでいいなんて思っていた。
だけど最終学年になってようやく、僕はこの祭りに楽しさを見いだせた。
隣にいる坂井さんを見ると、坂井さんも満足げな顔だった。
よかった。
彼女がこんなにも楽しそうで。
嬉しそうで。
満ち足りていて。
夏休みのあの日が嘘のように、晴れやかな彼女の顔にほっとした。
もちろん周りには他のクラスメートもいるわけだけど、僕には坂井さんしか見えていない。
僕は改めて、彼女のそばにいられるなら、本当に何もいらないと思った。
何も望まない。
それだけ充実した時間だった。
文化祭の準備はもちろん楽しかったけど、その合間の何気ない会話も、休憩時間に一緒に飲むジュースも、最終下校時刻ギリギリの慌ただしい帰り道も全部、楽しかった。
僕は幸せだった。
たとえ、そのどの場面にも岡田さんがいたとしても。
いいじゃないか、好きな人と、美人に挟まれて過ごすなんて。
すがすがしい気持ちで明日からの文化祭を迎えられそうだった。