「あ、あった」
坂井さんの視線の先は、彼女の身長よりもずっと上で、背伸びをして手を伸ばしても、彼女には届かない場所にあった。
「園田君、届く?」
「ああ、うん」
僕は男子の中ではそこまで背が高い方ではない。
だけど、彼女が何とか伸ばして届かなかったビニールテープの棚に、僕の手は軽々と届く。
わずかな身長差に、胸が勝手にときめく。
「ありがとう」
手渡した瞬間のその笑顔に、どうしようもなく胸が爆ぜる。
「あとはねえ……」と言って歩き出す坂井さんの声を遠くに聞きながら、僕はぼんやり考えた。
付き合うって、こんな感じなのかな。
彼氏って、こんな感じなのかな。
好きな人に、頼られたり、守ってあげたり、役に立てたり、幸せにできたり、笑顔にできたり。
あいつは、どんな彼氏なんだろう。
どんなふうに彼女のそばにいるんだろう。
やっぱり優しくするのだろうか。
僕にはそんな優しさ、見せないけど。
彼女をどんな目で見ているんだろう。
手はどんなふうにつなぐんだろう?
どんなふうに抱きしめるんだろう?
キスは、したのかな。
それ以上は……。