広い通路を歩いている時は何ともなかったカートも、コーナリングはかなり難しい。
男らしく何とか遠心力を借りてでも曲がり切りたいところだけど、曲がり切れずカートごと体が持ってかれそうになった。
それを、坂井さんが隣から支えてくれた。
思わず目が合うと、彼女は僕に「ははっ」と軽く笑いかけてくれる。

「こんな大きなカート、大袈裟だよね。由美、気合だけは十分だからなあ」

このカートを選んだのは、岡田さんだ。
そして岡田さんはそれを早々に僕に押し付けた。

「カート、小さいのに変えようか?」
「ううん、大丈夫。まだ大物もあるでしょ?」
「うーん……」

坂井さんはスマホをスクロールしながら、買い出しリストを見ていた。

「あと、こんな感じ」

そう言いながら、僕の方にスマホを差し出した。
その瞬間体がぐっと近づいて、どきりとした。

__え? 見ても、いいの?

少しためらいながら、僕の方に差し出されたスマホをのぞき込んだ。
ほんの少しだけ、顔の距離が近くなる。
気を付けていても肩同士はぶつかって、薄いカッターシャツがこすれあう。
それだけなのに、僕の心臓は密かに音を立て始める。
指を通せばするりと流れていきそうな髪が、目のすぐ端でふわふわと揺れている。
スマホに書かれた買い出しリストをぶつぶつと読み上げる坂井さんの声が思いのほか近くから聞こえてきて、僕はなんでもない顔をしながら、のどをごくりと鳴らしてその声を聞いた。
スクロールしていく指は細くて、そのかわいい指をそっと握りたくなる。

__もう少し、近づいてもいいかな。

ほんの少しだけ体を寄せた瞬間、「あ、ビニールテープ、さっき見たなあ」と言いながら坂井さんは後ろ向きに歩いていくと、僕からその顔も体も離れていった。
僕も止めていた息をふっと吐いてから、それに倣ってついていく。