正直に言うと、チャンスだと思ってしまった。
何がチャンスかって言ったら、まあだいたい予想はつくよね。
留学、遠距離恋愛、すれ違い、焦り、不安……。
その連鎖がもしも二人の仲を引き裂くようなことがあったら……
……なんて、卑劣な考えだって自分でもわかってる。
好きな人の不幸をチャンスと思ってしまうなんて、ほんと最低だと思う。
そんな状況にならないと行動を起こそうと思えないなんて、小さい男だと思う。
ただ万が一本当にそうなってしまっても、僕が何か行動を起こすことはまずないだろう。
だから「もしも……」なんて考えたところで、急展開は、ない。
僕に何か物語みたいな劇的な展開やきっかけがない限り。
それも、大物の。
それもないだろう。
だって僕は、地味男子だから。
だから、イベントの多い二学期に期待することも、何もない。
文化祭にも、体育祭にも。
夏休みが明けてすぐに、僕たちの学校では「祭り」と呼ばれる文化祭と体育祭の準備が始まった。
僕たちのクラスでは、たこ焼き屋をする。
出席番号をもとにグループが組まれ、看板製作、屋台の組み立て、ポスター作り、衣裳づくりなど、各グループに仕事が割り当てられた。
出席番号が前後の僕と坂井さんは当然のように同じグループになり、屋台の上に乗せる看板製作を担当することになった。