「勝見君のことが、わからない」
その表情と言葉で、あいつからまだ留学のことを知らされていないことを悟った。
何となく知っている僕の目の前に、何も知らない彼女がいる。
そんな構図が、もどかしすぎる。
僕の知っていることは、何もかも教えてあげたかった。
あいつの第一志望が、坂井さんと同じではないこと。
次の春には、もう日本にすらいないこと。
坂井さんのそばにも、僕のそばにもいないこと。
だけどそれを知ったときの彼女の姿を想像すると、絶対に言えなかった。
彼女を傷つけるだけだってわかっていた。
僕の手で彼女を傷つけるなんて、そんなこと絶対したくない。
だけどもしそれを知ったら、あいつの口から留学の話を聞いたら、彼女はどんな反応をするだろう。
二人はどうなってしまうのだろう。
どんなに遠く離れても、二人の関係は、今と同じでいられるのだろうか。
気持ちは続くのだろうか。
今のままの二人でいられるのだろうか。
僕はぶんぶんと頭を振って、目の前のカフェオレにそっと口を付けた。
僕がそんなこと考えたって、しょうがない。
これは二人の問題。
僕は関係ない。
僕はあいつの友達。
坂井さんはあいつの彼女。
僕は坂井さんの……。
苦くもないカフェオレに顔をしかめた。
__僕は坂井さんの、彼氏の友達。
所詮僕は、そんな程度だ。