「もう、園田君までそんな深刻な顔しないでよ」

岡田さんの言葉で我に返った。
帰ってきたところで、やっぱり言葉は思いつかなかった。
そんな僕を見かねたか、岡田さんが先に声をかけた。

「あかり、そんなに落ち込むことないよ。まだまだこれからだって。それに、頑張ってるあかりにこんなこと言いたくないけど、一緒の大学に行けなかったからって、関係が変わったり、気持ちが変わったりするなんておかしいでしょ? 本当に好きなら、それぐらいで別れたりしないから。大丈夫だって。勝見君、あかりのことすっごく大事に思ってくれてるじゃん。ほんと羨ましいぐらい」

ほんと、妬ましいぐらい。
あいつの坂井さんへの愛情表現は僕の目に余る。

部活中、教室にいる坂井さんに手を振ったり、図書室で一緒に勉強したり、掃除当番の時には一緒にゴミ捨てに行ったり。
そんな光景は、実際見るのも、思い出すのも辛い。

僕の肩がガクンと落ちた時だった。

「本当に好きなら、ね」

その小さな声を、岡田さんはもちろん、僕の耳も捉えた。

「え? なになに? どういう意味?」
「勝見君は、ほんとに私のこと、好きなのかな?」
「どう見ても好きでしょ。好きすぎるでしょ。何が不満なの? あんなに恥ずかしげもなく愛情表現してくれるのに。ねえ? 園田君」
「え? あ、うん」

ほんと、見てるこっちが恥ずかしいくらいに。

「勝見君と何かあった?」


__「坂井さんには言うなよ」


不意にあいつの言葉が脳裏をよぎった。
もしかして、坂井さんはもう、あいつの留学のこと、知ってるんじゃ……。

「何も」
「え?」

僕の声が、岡田さんの声と重なった。

「何もない。勝見君とは、何もない。連絡もない。会うこともない。何もないの」