「園田君も休憩?」
「ああ、うん」
「あれ? ちょっとやせた?」
「そんなこと、ないよ」
「園田君はお盆休みどうしてたの?」

一日中たこ焼きを焼いていたなんて言えるわけもなく、「勉強、かな」とぎこちなく答える。

「あはは、まあそうだよねえ。受験生だもんね。あーあ、早く終わって遊びたいなあ。ねえ、あかり?」

岡田さんの声に、坂井さんは反応しない。
その姿に、声をかけられない自分が情けない。
岡田さんに「何かあった?」と聞けばいいのに、それすらできない。

だって坂井さんは、あいつの彼女だから。
何でもない僕があいつのいないところでそう聞くのは、なんだかあいつに悪いような気がした。

「ちょっと頑張りすぎなんだよ、あかりは。勝見君と同じ大学に行きたい気持ちはわかるけどさ」
「だって……」

先ほどまで無反応だったのに、テーブルに突っ伏したままの頭から、くぐもった声が聞こえてきた。

「全然成績上がんないんだもん。むしろどんどん成績下がってる。前までわかってた問題が急にわからなくなる時があるし、わかってたはずなのに、急に手が動かなくなって……」
 
声は淡々として落ち着いているのに、ちゃんとよく聞けば、その声は震えていて、悲痛という言葉以外の何物でもなかった。
その姿に僕まで肩を落としてため息をついた。

目の前のカフェオレを手にして口につけようとしたとき、ふと視線を感じて動きを止めた。
突き刺さる視線の先を見ると、岡田さんが僕を凝視していた。
「ひっ……」と情けなく小さな悲鳴が上がって、手元のカップが揺れた。
もちろんカフェオレも揺れて、僕と一緒に驚いた一部がカップから飛び出る。

__「園田君もなんか言ってよ」

その目は明らかにそう言っていた。

何かって何だろう。
彼氏でもない僕が、彼女にかけられる言葉。

「僕じゃ、ダメ?」、とか?