ちらりと視線を上げてあいつの姿を探す。
スマートに外国人とやり取りをして、自然と笑えるあいつがかっこよく見えた。

僕は視線をノートに戻して、自分の書いた英単語をじっと見つめた。
そこに並んだセンテンスを、小さく口に出して呟いてみる。
その英語は全く流れるような美しいものではない。
自分の声を聞いていても、明らかにおかしい。
流れるようなスペルは、カチカチのカタカナに次々と変換されていく。
そして何より、言っている意味が分からない。
それなのにしばらく飽きずにつぶやいていた。
もしかしたら、次話しかけられた時、奇跡的に使えるかもしれないと思って。

「園田」

名前を呼ばれたその人を目に捉え、僕はふーっと息を吐く。

「なあんだ……」ではない。
「よかったあ……」だ。

「なんだよ、その顔」
「え?」
「園田にときめかれても、嬉しくない」
「別にときめいてないし」
「ほら、さっさとわかんないとこ見せろ。休憩時間終わるぞ」

長々と続く先生の説明に、睡魔と戦いながら殴り書きしたノートをあいつに差し出す。
でかい黒板にびっしりと書かれた文字を何とか書き写してきたは良いものの、正直何の話だったのか、そして自分は一体どこがわからないのか、この問題が今後僕の何に役立つのか、自分でもよくわからない。
正直そこまで教えてほしい。

「また塾の問題かよ。お前居眠りなんかしてないよな?」

ぎくりとびくつく体を正して、「そんなわけないじゃん」と片言の日本語で強く主張する。

「じゃあ、先生が原因か? 指導者が悪い塾なら辞めちまえ」

先生ごめんなさい。
先生のせいじゃないのにね。

ただ、たとえ本当に先生に原因があったとしても、僕はきっと、あいつの助言をきかないだろう。
だって僕には、その塾に通う理由があるんだから。