今日も塾が終わってから、あいつのバイト先のカフェで勉強をする。
塾で分からなかったところを、あいつに教えてもらうのだ。
「家庭教師」と言っているのに、あいつの指定場所はこの語学カフェだった。
あいつが休憩時間に入るのを、僕はカフェの隅の方の机で問題集を開きながら待つ。
そして勉強で忙しいふりをする。
そうしないと、遠慮なく話しかけられるから。
日本語で話しかけられるならまだいい。
だけどここは普通のカフェじゃない。
「語学カフェ」だ。
受講生と間違えられて外国人講師に話しかけられたりすることがある。
それだけならまだいい。
僕自身が講師と間違えられることもある。
ここには、外国語を習得したい日本人だけでなく、たまに日本語を上手く話したい、日本について知りたいというストイックな外国人もやってくる。
こうして気を張って勉強しているふりをしていても「ハーイ」なんて、陽気に話しかけてくる。
だけどそのおかげで、僕も何とかやり過ごす術を身に着けた。
「アーハン」、「ソーソー」。
あとは作り笑顔。
これだけできれば、どんな国の人ともコミュニケーションが取れることが分かった。
明らかに空気がおかしくなるときもあるけど、それは日本人同士でだって同じでしょ?