それは、勝見君も同じだったのかもしれない。
私の返事を待つ勝見君の強いまなざしが、すっと消えていく。
息を吐き出した瞬間に、微妙に肩が落ちたように見えた。


「ごめん」


勝見君の口から、ぽろりと言葉が漏れる。

「担当の時間だから、俺行くわ」

そう言って、勝見君は私のそばをすたすたと通りすぎていく。
冷たい空気をまといながら。
私の血の気も体温も、その冷たい空気にさっとさらわれていくようだった。

勝見君の足音が、どんどん遠くなる。
追いかければまだ手が届く。
その腕にしがみつける。
手を伸ばせば、その指先に触れられるはず。
声をかければ、名前を呼べば、素直な思いが届く距離。
それなのに、私はその場から一歩も動けなかった。

思い出されるすべての愛おしい思い出が、涙と一緒に零れ落ちていく。

絡み合う指の感触。
触れ合う唇。
優しく大きな手。
ふわりふわりと揺れる、力強い腕。

もう私には、何もない。

ほら、私の言った通りでしょ?

一目ぼれから始まる恋なんて、上手くいかない。