「実は……」から始まる勝見君の話を、私はその場にぺたんと座り込んだまま聞いていた。
瞬きもせず、ただ一点を見つめて。
何を見ていたのか、どこを見ていたのか、自分でもわからない。
ただ自分の呼吸で体が上下するのを感じながら、聞こえてくる勝見君の声を、ただ耳に流しいれていた。
勝見君が話す「実は……」には、私の知らないことがたくさんあった。
そこには私の知らない勝見君がいて、その勝見君は、私の何歩も先を歩いていた。
私が受験のプレッシャーや、「超難関」の大きな壁にぶち当たっている間に、私の
ずっと先を進んでいた。
「へえ……」
勝見君の話が終わって私が一番に発したのは、そんな相槌だった。
それ以上は何もない。
何も言うことがない。
正直、勝見君が話してくれたことはほとんど頭の中に残っていない。
__留学って、なに?
私の思考は、そこで止まっていた。
勝見君が淡々と、丁寧にゆっくりと、細かく説明してくれたそれがすべてなのに、私の頭はいつまでもその質問を繰り返す。
口から出して聞く気力も湧かない。
口からは何度も「へえ……」という、薄っぺらな返事だけが出てくる。
「へえ、留学、か」
最終的に、そこにとどまった。
「ごめん。ずっと言おうと思ってたんだけど、言いそびれて」
「ああ、うん。そっか。しょうがないよ、勝見君、忙しいし。部活もあったし、勉強もしないとだし、バイトも……」
淡々と流れる声で、私はちゃんと理解を示した。
だって勝見君は頑張ってるもん。
勝見君はすごい人だもん。
私と違って。
だからせめて、私は聞き分けの良い彼女でないといけない。
こんなすごい勝見君のそばにいるには、これくらいできないないとダメ。
勝見君の、良い彼女でいたいから。
だって勝見君は、私の、自慢の彼氏だから。