私の首元で揺れる勝見君に合わせて顔を動かすと、勝見君の鞄の中が妙に光って見えた。
そこで私はようやく、天井に照らされた光の正体を知った。
勝見君のスマホのライトだ。
鞄にそのまま投げ込まれたのだろう。
そのライトのおかげで、勝見君の開け広げられた鞄の中身がよく見えた。

いつも使っている問題集やノートや教科書。
筆記用具。
そのどれにも、勝見君は優しく触れる。
その手が、私は大好きだ。

飲みかけのペットボトル。
緩く巻かれたイヤホン。
無色透明の、無機質なクリアファイル。

そのファイルだけ、なぜか問題集やノートの間からはみ出ている。
まるで乱暴にツッコまれたように。
そこにはたった一枚だけ、紙がはさまれている。
挟まっているというより、ほぼ飛び出ている。
その紙は、私も見覚えがある。
高校三年生になってから、何度も何度も、嫌というほど書かされた、その紙。

あれは紛れもなく、進路希望調査票。

勝見君の志望校なら知っている。
私も同じだから。
それでも私はその紙に書かれた勝見君の文字を読み取ろうとした。
勝見君が書いた文字が好きだから。
だけど、その文字は私の知っている勝見君の字じゃない気がした。
いつもより筆圧はさらに低く、ぼんやりとあやふやな文字が並ぶ。
しかも、たった二文字。

私はその文字に目を凝らした。
そしてそこに書かれた文字がはっきり読み取れた時、私は覆いかぶさっていた勝見君の体をグイっと離していた。
そしてものすごい速さで、勝見君の鞄の中からその紙だけを抜き取った。