私の頭の中は一瞬パニックになった。
冷静になったところで、硬くつぶられた目を少しずつ開けると、私はその場にしゃがみ込んで、後ろから口をふさがれていた。
頭の先から体を丸ごと優しい力で包み込まれて、背中にはぴったりと生暖かな感触が張り付いている。
ふっと視線を上げると、勝見君のあごのラインが見えた。
目が合うと、勝見君は私を抱く片方の手で、「しっ」と小さく人差し指を上げた。

「今のなんだった?」
「すっげえ悲鳴だったな。ってここ、お化け屋敷じゃん」
「リハーサルかなんか?」

すぐ近くで人の声がする。
足音もする。
そして私の心臓の音も、ドクンドクンとうるさく響く。
心臓に胸を思い切りたたかれているのが、骨の震えでわかる。

ここが教室の扉付近だということが、廊下から聞こえる足音や人の声の大きさで何となくわかった。

「本格的だな」なんていう声と共に、足音はどんどん遠ざかっていく。