「あのさ」

私の体をそっと自分から離して、勝見君は真剣な表情で話し始めた。
ぼんやりと見つめる私から目をそらすように、勝見君は視線を泳がせる。
こんな落ち着きのない勝見君を、今まで見たことがあっただろうか。

「あのさ、言わなきゃいけないことが、あるんだけど」
「……なに?」

いつも見ない勝見君の挙動に、その言葉の先に不安がよぎる。

「あの……、坂井さんは、文化祭は、どうしてる?」
「……え?」
「誰かと、回る予定ある?」
「えっと、特に約束はしてないけど」
「じゃあさ、一緒に、回らない?」
「え?」
「一緒に回りたいんだけど、だめかな?」

勝見君はちらりと視線だけをこちらに向けて、私の反応をうかがおうとしていた。
そこでようやく、目が合った。
勝見君の瞳が、揺れて見えた。
その表情に、はっとなった。「勝見君、もしかして、照れてる?」
「え?」
「私を文化祭に誘うの、緊張してる?」

そんなこと聞くの、自惚れかもしれないけど、勝見君のこんな表情なかなか見れないから、胸がくすぐられていた。
いつも余裕で、落ち着いている勝見君には珍しいから。

私の質問に、勝見君はたじろぎながら答えた。