廊下にはまだちらほらと走り回る生徒がいた。
教室の中にも頭を突き合わせて話している生徒がまだ残っている。
いつもはどの教室も同じに見えるのに、派手に彩られて飾られた教室は、一部屋一部屋に個性があって、見て歩くのは楽しかった。
一足先に、二人で文化祭を楽しんでいる気分だった。
二人だけの、特別な時間に感じられた。

「手、つなごうか」

階段に差し掛かったところで、不意に勝見君がそう言った。
心臓が大きく跳ね上がりすぎたせいで、私は一瞬歩みを止めた。
手が震え始めていた。
勝見君と手をつなぐなんて、いつぶりだろう。

「……だめ?」

勝見君の声が、私に甘えてくる。
勝見君らしくないその声に戸惑って、「いいよ」とも「ダメ」とも返事を返せないうちに、勝見君は私の手を迎えに来て、指先を絡め始めた。
半ば強引ともいえるその行動に、指先が不安がる。
ぎゅっと握る勝見君の手を、私もぎゅっと握り返したいのに、上手く力が入らなかった。
誰かに見られたらどうしようなんて心配や警戒心も働いて、心臓がバクバクと走り始めていた。

ちらりと勝見君の方を見ると、その表情は硬かった。
伏し目がちで、口元はきゅっと強く結ばれている。
絡められた指先にも、今まで感じたことのない力強さを感じた。
穏やかに笑って、いつもふわふわとしている勝見君の空気感が見当たらなかった。
いつもと違う勝見君に、私はおろおろし始める。
会わない間に、勝見君が変わってしまったような、私のあの直感が当たってしまったような、そんな不安が一瞬よぎった。