ずいぶん待ったことなんて忘れてしまうほど、頭の中は幸せに満ちていた。
他愛もない話すら楽しい。
各々のクラスの話をしながら下まで降りて、下駄箱で靴を履き替えて外に出ると、先ほどまで明るかった空が怪しげな雲に覆われていた。
遠くの方の空は明るくて、太陽の日差しも降り注いでいるのに、学校の上空だけ灰色の雲が何層にも膨れ上がっている。
空気もいつもよりぐっと湿度を増して、肌にまとわりつく湿り気が気持ち悪い。

「なんか、空、怪しいね」
「うん」

なんて言っている間に、ぼとりぼとりと、大きな雨粒が地面を濡らす。
「あ」と思っている間に、ぼとぼとぼとぼとと、さらに雨を落とし始める。
あれよあれよという間に、視界はすっかり雨の線に遮られる。
遠くの方でゴロゴロと不気味な音が聞こえてきて、明らかにこちらに近づいているのがわかる。
昇降口付近では、何人かの生徒が私たちと同じように空を見上げていた。
傘をゆったりとさして歩き出す人。
そのまま飛び出す人。
その場で待機する人。
いずれにせよ、激しく飛び散る雨粒に対抗できる術はなかった。
何をしていても濡れる。

私たちも、昇降口内にいたにもかかわらず、跳ねた水で足元が濡れ、顔や制服からはみ出た腕や足なんかはしっとりとしている。
直接雨にさらされたわけでもないのに、カッターシャツも湿り気を帯びている。

次第に風が出てきて、まっすぐ落ちるだけだった雨が、風の形に合わせて波打つ。
雷の音が大きく、唸るように鳴っている。
その光景と音に、心細さを感じる。

「こりゃ帰るの無理だね」

勝見君が空を見上げながらぽつりとつぶやく。

「あと一時間は続きそうだな」

スマホで天気予報を見ながら、勝見君は低く唸った。
だけどすぐに声音を変えて言った。

「学校探検しない?」
「え?」
「どうせ動けないし、他の教室見てみようよ。明日から文化祭だし」

そう言って、勝見君は下駄箱に戻っていく。
そして、おもむろに靴を履き替える。
その後を追って私も靴を履き替えた。