勝見君はいつも恥ずかしげもなく愛情表現はしてくれるけど、こうして甘えるようなことを言ったり、甘えるような仕草を見せることはない。
いつも冷静で、落ち着いていて、余裕で。
だからいつもと違う勝見君に、ほんの少し違和感を覚えた。

勝見君は私の頭を、それはそれは大事そうに優しく撫でた。
頭を撫でてもらう理由なんて、どこにも見当たらないのに。
だって私、20位以内に名前も載ってないんだよ。
リレーの選手でもないんだよ。
何もすごいことなんて、ないのに。
それなのに、その手のひらは、私に愛情や優しさを惜しみなく与えてくる。
それを感じるだけで、私はバカみたいに安心できた。
特別に思ってくれてるなんて、自惚れられた。

「今日さ、一緒に帰らない?」
「え?」

顔を上げると、勝見君の手が頭から離れていった。

「一緒に帰りたいんだけど、だめかな? 坂井さんのクラスの準備が終わるまで待ってるし」
「うちのクラスはもうほとんど終わってるからすぐ帰れるけど、……勝見君、バイトは?」
「この一週間は入れてないよ。絶対体力持たないし。俺もあとこれ片付けるだけだし、迎えに行くから教室で待ってて」

嬉しさで、体がはじけそうだった。

「うん……うん」

幼い子どものような甘えた声で小さく返事をしながら、首を何度も大きく縦に振った。

__やっぱり、大好き。

私は、こんなに単純な人間だっただろうか。
勝見君の一言で、勝見君の優しさで、勝見君の笑顔で、不安も不満も焦りも、全部、なかったことになってしまうんだから。
ちょっとのことで気持ちが落ちて、何でもないことで気持ちが戻る。
それは全部、勝見君のせい。
勝見君が、好きだから。
この心臓の高鳴りも、にやけてしょうがない顔も、走り出したくなるほどの嬉しさも、全部、全部、勝見君次第。