「坂井さん、すっかり大人になったねえ」
店長は穏やかにそう言った。
まるで娘の帰りを待っていた父親のようだけど、年齢はまだ四十手前だ。
「これから社員さんとして、よろしくね」
「こちらこそ、またお世話になります」
「そうだ、就職祝いにテーマパークに連れてってあげようか」
「え?」
「ほら、坂井さん、鞄にキーホルダーいっぱいつけてるから。そこのテーマパーク好きなのかなあと思って」
「ああ、これは……」
鞄にじゃらじゃらとぶら下がるキーホルダーたちを見やると、ふっと笑いがこみあげてくる。
「あ、もちろん、二人きりとかじゃなくて。坂井さんと同じ時期に入る子も含めて。歓迎会みたいな感じで。先生とか常連さんとかも一緒にみんなでワイワイ」
「ああ、良いですね。……えっと、新入社員って、私の他にもいるんですか?」
「いや、社員ではなくバイトの子がね。新しくって言うか、厳密には戻ってくるんだ。……さっきまでここにいたんだけどなあ。そうそう。実はその子がさあ、前言ってた……」
そこで私のスマホがブルブルと鳴った。
由美から会場に到着した旨のメッセージが届いた。
もうそんな時間なのか。
ただでさえぎりぎりで、ほんの少し挨拶をするはずだったのに、すっかり話し込んでしまった。
私は店長の話をやむなく途中で遮った。
「あ、すみません店長。私そろそろ行かなきゃ……」
「ああ、うん。じゃあまた紹介するよ」
「はい、では失礼します」
そう言って、慌てて会場に向かった。