通うようになって少しすると、店長にここで数日バイトをしないかと誘われた。
受験生の私に。
ただの受験生じゃない。
崖っぷちの浪人生の私に。
もちろんはじめは断った。
ここには息抜きで来ている。
バイトなんてしている場合じゃない。

断ると店長は心底残念がった。

「そうだよねえ、受験生だもんねえ。ごめんごめん。受験生でもバイトしてた子いたからさあ。つい甘えちゃって」

その話に、体が震えた。
店長は楽しそうに当時の思い出を話してくれた。

「すごいんだよねえ、その子、ほんとに。勉強もできて、バイトもして、サッカーが好きみたいでさ、聞いた話ではめちゃめちゃ上手いらしいんだよ」

__そうだよ。知ってるよ。だってその人は、私の自慢の……

そこまで考えて、私はバイトを承諾した。

たった数日の仕事とは、外国人に日本語を教える仕事だった。
日本語を教えるのは、私が思っていたよりもずっと難しかった。
限られたレッスン時間の中で、自分ができることなんてほんのわずかだった。
英語どころか日本語もまともに使いこなせていなかった自分の不甲斐なさに切なくなった。
だけど、その時間のために準備をして、相手のことを知って、一緒に頑張りたいと思う自分がいて、いつの間にか一生懸命になれてる自分がいて、楽しんでいる自分もいて。

そんな自分に気づいた私は、日本語の先生を目指すことにした。
バイトも続けた。
勉強の合間にバイトを入れて、バイトの合間に勉強した。
目的と目標ができると、勉強もやる気が出た。
成績も伸びていった。
独りで頑張っている感じはしなかった。
そして私は無事、大学に合格した。