いまだ店長の言葉が胸に引っかかったままの僕は、いつの間にか広瀬の腕に首を巻き付けられていた。
その状態下にもかかわらず、僕の頭の中は店長の言葉でいっぱいになっていた。
だけどそれを、広瀬の声がずかずかとかき消していく。
「だろ? 園田かっこよくなったよな。こいつさあ、ほんと女子にモテるんだよ。くっそお、園田のくせに」
と言いながら、せっかく駅のトイレでセットし直した髪をくしゃくしゃとし始める。
「まあ俺には及ばないけどな」
最後にはそんなことを言ってニッと笑い、周囲の笑いを獲得した。
わかってる、広瀬にはかなわないことぐらい。
だからほっといてほしい。
この腕を離してほしい。
髪をくしゃくしゃにしないでほしい。
僕には、やらなきゃいけないことがあるんだ。
坂井さんを、探さなきゃ。
誰よりも先に。
「言っとくけど、俺が園田にモテ術を伝授したんだぞ。感謝しろよ、園田」
そう言いながら、広瀬は僕の首に巻き付けた腕に力をこめる。
首が締まりかけて苦しいと思ったら、耳元で、広瀬がぼそりと言った。
「この日のためにな」
そう聞こえた声は、なんだか切なげだった。
そうかと思ったら、「お、来た来た」と楽しげな声と共に、もう視線を遠くに向けていた。
広瀬の視線の先を、僕も思わず追いかけた。
そこに現れた人の姿に、はっとなった。