会場となる店に足を踏み入れるとオレンジ色の温かみのあるライトが各テーブルを照らしていた。
懐かしい雰囲気を期待していたのに、そこには懐かしさのかけらもなかった。
ここは本来、こんなムードのあるおしゃれな店ではない。
いつもは大きなモニターにスポーツ中継が流れ、試合が盛り上がれば自ずと歓声が派手に上がるようなスポーツカフェだ。
カフェという名の喫茶店だ。
高校生の僕たちサッカー部が行きつけにしていた頃と店内の配置は何も変わらない。
だけど今日だけは、少しばかりおしゃれな雰囲気を醸し出している。
今日は僕たちの同窓会のために貸し切りになっている。
壁には「同窓会おめでとう」なんて、お世辞にも達筆とは言えない毛筆で書かれた横断幕が垂れ下がっている。
それを書いたのは、僕だ。
同窓会の幹事を一緒にやろうと広瀬に誘われたのは、一年も前の話だ。
僕は昔からクラスの中心に立つような人間ではない。
それを広瀬もわかっているはずなのに、どうしてそんな僕を誘うのかわからなかった。
わけのわからないまま、僕は数年ぶりに実家から習字道具を持ち出し、筆を握ったというわけだ。