「あ、そうだ。勝見に言っておかないといけないことがあった」
もう会社に戻る時間だと立ち上がった広瀬は、会計に進みがてら話し始めた。
「園田のことなんだけど」
その名前に、俺はその場で動きを止めた。
俺に合わせて広瀬も止まり、俺の方に向いて言った。
「あいつさ、今、付き合ってる人、いないよ」
「……え?」
「よかったな、何もなくて」
「お前もお節介だな」
そう言いつつも、俺は心底ほっとした。
つまりそれは、あの時広瀬が言った、「先にどうかなったら……」は、どうにもなってないという証明だからだ。
「でも、あいつ、変わったよ」
「会ったの? 園田に」
「会ったっていうか……」
俺に背中を向けて、広瀬はすたすたと歩きながら話しを続ける。
「あの日さ、お前が出発する日。俺も園田の気持ち聞いちゃったじゃん。そういう事情知りながら、年に一回こうして勝見と会ってアドバイスしてるとさ、なんかお前だけに加担してるみたいで……そんなのフェアじゃない気がして」
「いや、アドバイスも加担もしてないでしょ」
「だから俺、園田をプロデュースした」
「……は?」
「頭とサッカーはどう頑張ってもお前にはかなわないからさ、せめて外見だけでもと思って」
「……何やったんだよ」
「まあ、今日会えばわかるよ」
くつくつと笑う広瀬に「なんか楽しんでない?」とにらみつけると、
「俺だって、この日を待ちわびてたからな」
と遠い目をして言った。
まるで大切なわが子を無事送り出せた、安堵の気持ちに満たされた親のような表情
が神々しかった。