「ダメだろ」
「なんでだよ」
「イタすぎだろ。いい大人が独りでテーマパーク行って、一時間ベンチにぼーっと座って、別れた彼女にお土産だけ買って帰るって」
「だって……」
「お前も往生際が悪いな。毎年彼氏でもない人からプレゼントが届くって、ほんとなら怖いから。坂井さんだって思ってるよ、『キモッ』って」
「坂井さんはそんなこと思わないから」
目の前の広瀬とこうして応酬するのも、かれこれ九年目だ。
毎年この時期に、広瀬と飽きずにこのやりとりを繰り返している。
「坂井さんは……」
__「ずるいなあ、勝見君は」
あのころと変わらない、坂井さんのいたずらっぽい笑顔が思わず浮かんで、それにつられて俺の頬もだらしなく緩んだ。
「あ、またなんか変な妄想してるだろ。そう言うのがキモイんだって」
「うるせえ」と小さく反論して顔を引き締めた。
「てか、今年は帰ってくるの早いんだな。いつも夜の便だろ」
「そりゃあ今日の予定に間に合う様にって思ったら、あさイチの飛行機で帰ってくるしかないじゃん」
「お、気合入ってんじゃん。勝見も意外と楽しみにしてたんだな、同窓会」
「別にそんなんじゃない。この後寄るとこもあるから、都合がよかっただけ」
「お、もしかして、パークか? 何なら午後休とって付き合うぞ」
にやりと笑って腕まくりをする広瀬を一瞥してから、俺は椅子に掛けたコートの大きめのポケットの中をそっと覗き込んだ。
その暗がりに向かって、ぽつりとこぼす。
「今年は、行かないよ」
そのポケットの中身に思いを馳せて。
「だって今日、同窓会だし」
卒業して九年って、何の節目なんだかわからないんだけど。
しかも、クリスマスイブに同窓会って。
__「だって、日本に帰ってくるんだろ?」
日本に帰国が決まったちょうど一年前、俺が坂井さんに八個目のキーホルダーを渡しに行った翌日、広瀬がそう言って今日の同窓会が決まった。