「じゃあ、なおさら行くべきなんじゃない?」
石ころから声が聞こえたような気がして、思わずその声にびくりと体が反応した。
「お前はやっぱり、行くべきなんだよ」
俺は冷静になって、だけどやっぱり、その石ころを見つめながら、石ころに話しかけるように言った。
「だから、坂井さんのことは、もう……」
「坂井さんを追いかけに行くんじゃなくて……留学」
「え?」と、俺はようやく広瀬の方に顔を向けた。
「隠れて告白聞いて、二人を追いかける方がよっぽどダサいだろ。これ以上ダサいお前を坂井さんに見せてどうすんの。それは違うだろ。それより、お前らしい生き方、坂井さんに見せてやれよ。見てほしいんだろ? 見せたいって気持ちあるなら、どっかで見てるだろ」
「そんな単純な……」
「それに、お前の直感はいつだって正しいんだろ?」
広瀬がにやりとして俺を見た。
「だったら、行くべきじゃん」
その言葉に、背筋が伸びる。
目が覚めたような気分とは、こういうことを言うんだろうな、たぶん。
ようやく心に晴れ間が見えて、前に進みだせそうな気持になった。
そこに悪気なく水を差すのもまた、この広瀬という男だ。
「まあそれで、園田と坂井さんが先にどうかなっちゃったら、全然笑えないけどな」
広瀬は冗談っぽく笑って言ったけど、俺は笑えなかった。
__先にどうかなっちゃったら……
コートのポケットに手を突っ込むと、指にこつんと硬いものが当たった。
その瞬間、クリスマスでもないのにシャラランと清らかな音が鳴る。
ポケットに忍ばせたものをぎゅっと握ると、柔らかな感触が手のひらをくすぐる。
__「ずるいなあ、勝見君は」
思い出の中の声が、俺の胸をそっと甘噛みしてくる。
記憶の中の声に、やっぱり思わず頬が緩む。
その声が聞きたい。
あの笑顔で、もう一度、その言葉を言ってほしい。