ひととおり話し終わるころ、俺と広瀬の間には、何とも微妙な、そして静かな空気が流れていた。
広瀬は表情を硬くして、俺なんかよりもずっと深刻そうな顔をしていた。

「そんな話聞いて、俺、この後どんな顔して見送り行ったらいい?」
「広瀬はそのままでいいよ」

どちらかというと、その心配をするのは俺の方だ。
広瀬と何食わぬ顔をして、園田の前に立っていられるだろうか。
想像しただけで、卒倒しそうだ。

「で、どうすんの?」

広瀬は緊張感を滲ませた声で聴いた。

「このまま、行くの? 留学」
「うーん、まあ……うん、どうしよ」
「何だよその中途半端な返事は。もやもやしてるんなら、追いかければいいじゃん。まだ間に合うだろ」
「追いかけてどうすんだよ。隠れて告白聞いてたって、白状しに行くわけ?」
「冗談言ってる場合かよ」

険しい顔つきで、広瀬が俺を𠮟りつける。
だけど、俺にはわかってる。

「追いかけたところで、何も変わらないよ。坂井さんはきっと、俺にも同じことを言うよ」
「そんなのやってみないと……」
「もういいんだって」

そう言っているのに、広瀬は話し続ける。

「でも聞いた感じだと、心変わりしたわけじゃないし、それに園田には悪いけど、坂井さんだってお前のことまだ……」
「もういいから」

思わず語気が強くなった。
そう言っただけなのに、妙に息が乱れた。
その呼吸と、自分の気持ちを落ち着かせるように、俺は無理に笑って広瀬に軽い調子で返した。

「さっきから言ってるじゃん。今さら追いかけたところで、何も変わらないから。俺には何も変えられないから。だから、もういいんだよ」

もう何もかも面倒だ。
これからのことを考えるのも、二人の行く末を想像するのも、空港に行くのも、見送られるのも。
恋をするのも。