園田から奪いとった坂井さんの手を引きながら、俺はぐっと奥歯を噛んだ。
一学期、坂井さんが俺を避けるようになった理由が、ふと蘇った。
たったひとつだけ。
それは、俺が一番考えたくなかった、一番最悪な理由。

__他に、好きな人ができたから。

だから思わず、言ってしまった。

__「園田の方がよくなっちゃった?」

そんなこと、言いたいわけじゃなかった。

__「園田の方が大切にしてくれそうだもんな」

そんなこと、認めたくない。

素直に言えばよかったんだ。

「俺以外の人、見ないで」って。

それができてれば、今もその愛おしい瞳は俺だけに向けられていたはずなのに。

その笑顔は、俺だけが引き出せると思っていたのに。
その指先に触れていいのは、俺だけなのに。
自分の場所だと思っていたはずの場所に、今、園田がいる。
いつの間にか、園田がいた。
寂しそうで、切なげで、好きな人をただ見ているだけの園田が。
俺の大切な人の隣で、幸せそうに笑っている。
その指先に触れている。
優しい言葉をかけている。
笑顔にしている。