夏休みが明けるとすぐに祭りの準備が始まった。
その慌ただしさの中で、坂井さんと会う時間どころか、坂井さんの姿を見かけることもめっきりなくなっていた。
確かにクラスは違うし、教室も廊下の端と端なんだけど、これほど会えないものかと驚くばかりだ。

会えば、言わなきゃいけない。
だから、会いたくない。
だけど、会いたい。

複雑な心境を抱えながら、俺は自分のクラスの出し物の準備をしていた。
全然楽しくなかった。
さらには準備の合間に訪れる進路指導の時間が、苦痛でならなかった。
もう心は決まっているのに、前に進めなかった。

進路希望調査票に記された「留学」という文字は、情けないほどに弱々しかった。
進路指導で先生に動機や将来的なことを聞かれても、曖昧な返事ばかりではっきりと答えられない。
再提出と言われて返却された進路希望調査票を握る手に、思わず力がこもった。
俺はそれを、乱暴にファイルに突っ込んで、鞄の中に押し込んだ。
もう一度考え直すように言われたところで、何も考えられなかった。
何も見えなかった。
自分の将来も、現実も。
ドラキュラの衣装を着せられて、派手なメイクをして、頭に角をつけて、箱の中に入って。
箱の中は、俺の頭や心同様、真っ暗だった。
「リハーサルだからって、手ぇ抜くな」と広瀬に叱咤されたところで、どこに力を入れていいのかわからなかった。