梅雨が明けても、俺の心の中はもやもやと気持ち悪い湿度に見舞われていた。
夏のすがすがしい空が恨めしいほどに。
変な焦りと妙な不安が消えることのないまま、夏休みを迎えてしまった。

そして俺は、イギリスに行った。
そして「留学」という進路に出会った。
選択肢の一つとして悩むこともなく、俺はその時点でほぼ留学を決めていた。
その興奮状態が覚めることのないまま、日本に帰ってきた。
帰ってすぐに坂井さんに連絡をしようとした。
そういう約束だったから。
だけど、スマホを握って文章を入力しようとしたところで、手が止まった。

__留学したら、俺たちはどうなるんだろう。

急に不安になった。
どうして不安になる?
だって留学したからって、何かが変わるわけじゃない。
俺たちの関係はそんなもろいものじゃ……

そこまで考えて、さらに不安が増した。
怖くなった。
「留学する」と言ったとたん、坂井さんとの関係が、二人の気持ちが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまうんじゃないかと思った。
あの視線も、あの笑顔も、細くて冷たい指先も、どこかに行ってしまうんじゃないかって。
他の誰かの物になってしまうんじゃないかって。
そしてなぜかそこにちらついたのが、切なげな、園田の顔だった。
いつもなら「そんなことあるかよ」って笑い飛ばせるのに拭い去れないのは、俺の直感は、嫌なほど、本当によく当たるから。